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2013年 02月 20日 ( 1 )

聖ゲオルギウスとセント・ジョージ (No.1628 13/02/20)

d0151247_215722100.jpg 現在のイギリスの国旗、いわゆるユニオン・ジャックは、イングランドの国旗(白地に赤い十字のセント・ジョージ・クロス)と、スコットランドの国旗(青地に白い斜め十字のセント・アンドリュー・クロス)の組み合わせに、さらにアイルランドの国旗(白地に赤い斜め十字、セント・パトリック・クロス)を組み合わせた複合的なもの(左参照)だということをご存じだろうか。白地に赤丸の日の丸とは違って、複雑な大英帝国成立の過程でできた産物なのである。
 このなかでも中核をなす旧イングランド国旗、セント・ジョージ・クロスの由来がちょっと面白い。セント・ジョージとは欧州で言われる古代の聖人・聖ゲオルギウスの英語読みで、実は彼の出身はイングランドではない。遠く離れた小アジア、トルコのカッパドキアだと言われている。イングランド人ではなく、トルコ人なのである。だが、この英雄は欧州ではたいへん人気があり、いつの間にかイングランド人に取り入れられてしまったのである。
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 聖ゲオルギウスが登場するのは古代ローマ時代末期である。トルコ、カッパドキアに毒のある息を吐いて人に悪さをする竜がいた。竜は人間に生け贄として子供たちを差し出すように要求し、街の子供はみな竜に食われてしまう。そして最後に残った王様の娘を差し出すまで治安が悪化する。そこにやってきたゲオルギウスが槍で竜をやっつけて、王の娘を救うのである。
 日本で言えば鬼退治に向かう桃太郎のようなものである。きっとカッパドキアには山賊のような悪党集団がいて、ゲオルギウスがこれを退治したのだろう。ところがゲオルギウスがキリスト教の聖人とされるには単なる悪竜退治では終わらない続きがあるからだ。キリスト教の信仰心が厚かったゲオルギウスは半殺しにした竜を人々の前に出し、「お前たちがキリスト教徒になると約束すれば竜を殺して永久に悪さをされないようにしてやる」と言うのである。
 助けられた民衆はたちまちゲオルギウスの言葉を受け入れてみながキリスト教に改宗する。ところが王だけが娘を助けてもらったにもかかわらず頑なにキリスト教を拒む。為政者にとってキリスト教は具合の悪い宗教だからこれが広まったらたいへんと思ったのだろう。ゲオルギウスを捕らえて拷問にかけるのである。しかし、神の加護で守られていたゲオルギウスは王妃を改宗させることには成功するが、最後は王に首をはねられて殉教する。
 悪をやっつけ人々をキリスト教に導きながら、自らは異教徒の王に斬首されるというのは悲劇の英雄伝説としては最高のストーリーである。こうしてゲオルギウスはカソリックの聖人の一人として「黄金伝説」に登場するようになる。イングランド国旗の赤い十字はこのときのセント・ジョージの殉教の血を表しているのである。
 聖ゲオルギウスの伝説を扱った絵画はラファエロなど沢山の画家が描いているが、フランス北東部、アルザス地方の小都市、コルマールのウンターリンデン美術館にあるファイト・ワーグナーの彫ったベルクハイムの祭壇彫刻( Veit Wagner / Le retable de Bergheim / 1515-1517 / Musée Unterlinden, Colmar )は、彫刻で聖ゲオルギウス伝説をうまく伝えている。4枚のパネルからなる祭壇画の左パネルで聖ゲオルギウスの物語を一枚の板に見事に彫刻している。
 長い槍を持った騎士が竜を倒し、生け贄にされそうになった王の娘と上の窓から王様夫妻が顔を出している様子が彫りの深い物語風彫刻となっていて素晴らしい。そして槍の先を注意して見ると、セント・ジョージ・クロスの元となった旗が付けられているなど、細かいところまで実によく彫られた傑作である。
by Weltgeist | 2013-02-20 23:55