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2010年 12月 18日 ( 1 )

物々交換と文通 (No.922 10/12/18)

 中学3年生のとき、フランスとアメリカに住む人と文通をやっていたことがある。今では電子メールの普及でとっくに死語になってしまったが、昔は「ペンパル」と言って、子供たちが下手な英語で、外国の友達と文通することがはやっていたのである。
 アメリカの少年とは同年代の14歳前後だったが、フランス人は歳のいったおじさんだった。なんでそんな爺さんと文通していたかというと、実はフランス人は蝶のコレクターで、小生が日本の蝶を送ると、相手はフランスの蝶を送ってくれた。いわゆる物々交換をやっていたのである。
 中学生が採る蝶だから、種類も知れた普通種だったが、フランスからきた蝶もどうせ子供だからと、多分普通種を適当に集めて送ってくれたのだろう。
 だが、開けてびっくり。日本では珍しいミヤマモンキチョウやクモマツマキチョウが入っていて、ひどく感激した。あの当時は知識もなかったので、「おじさんは奮発して珍しい蝶を送ってくれた」と思い込んでいたのである。実はミヤマモンキチョウやクモマツマキチョウはヨーロッパでは普通にいることを知らなかったのだ。
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 ところで物々交換というのは原始的な社会の流通システムで、基本的には自分に不要になった物を他の人が持つ不要品と交換することが発端である。個人で消費しきれないほど物を作りすぎた場合、これを差し出して他の人がいらなくなった物と交換する。「ご不要になった古新聞、古雑誌などございませんか」とやって来て、ティッシュと交換するチリ紙交換屋さんと同じと思えばいい。
 物々交換では交換できる物をお互いに持っていることが前提であり、また相手と交換する価値は同じでないとよろしくない。自分はジャガイモを10㎏出したのに相手は米1合しか出さないようでは物々交換は成立しないのである。
 マルクス経済学で言うところの等しい交換価値が一致したところで、物々交換もできるのである。しかし、小生がやっていた蝶の物々交換では、お互いが等しい交換価値の物を揃えるのは難しい。日本とフランス間で蝶の価値がどのくらい違うか分からないからだ。
 日本ではクモマツマキチョウはかなりの珍品で、価値も高いが、ヨーロッパではどの程度か、あの当時は見当もつかなかった。だからとりあえずこちらが10頭送ったら、向こうも10頭と数あわせで適当に物と物を交換していた。極めて原始的な経済行為で、「どっちが損した、得した」なんてみみっちいことは考えずにおおらかに交換、文通をやっていたのである。
 標本は10㎝角くらいの四角い紙箱に税関検査用の小さな穴を開けて、国際郵便で送っていた。当時はエアーメールはバカ高で、手紙だけなら問題なかったが、重い箱だと切手代がかかるからと、船便で送っていた記憶がある。
 フランスおじさんとの交換は全部で10回は繰り返したが、思い出してみるとずいぶん無謀なことをやったものである。中学3年生程度の英語力で、外国人と物々交換の交渉をやったのである。もちろん小生は特別英語が得意なわけでもない。簡単な英語の文章が書ける程度の生徒だった。
 しかし、それでもできたのは我々には世界共通言語であるラテン語があったからだ。といってもラテンの古典書ではない。蝶の学名はラテン語で書かれているのだ。だから、極端にいえば I want to ****** ***** とラテン語の学名を書くだけでことが済んでしまうのである。
 今思い出すと、ひどい英語でフランスおじさんも、小生の英文を読むのに苦戦したことだろう。もう一人のアメリカ少年とは数回手紙をやりとりしただけで、「コイツは駄目だ。英語じゃない」と思って見限られて自然消滅した。しかし、フランスおじさんに意味不明な英語を書いても相手にしてくれたのは、お互いに自国以外の蝶が欲しかったからだ。欲の皮が突っ張っていたからこんなこともできたのである。
by weltgeist | 2010-12-18 23:43