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マルティン・ルターその6、ルターの人間観 (No.326 09/01/30)

自分は真に愚かであると言う者は、真に賢いのである。同様に自分は力あり、姿うるわしく、高貴であると誇る者は、たとえ人の前ではそうであっても、まさにそのことゆえに、神の前では弱く、姿みにくく、賤しき者である。
( マルティン・ルター ローマ書注解1-22 )
昨日から再開したルター論の続きである。( 初めから読む人は、こちらをクリックしてください)

d0151247_1636564.gif ルターはパウロがローマ書で語った「人はどんな善行をしても救われない。ただ神の恵みを受け取る信仰によってのみ救われる」という言葉で、苦しい猜疑の泥沼からはい出すことが出来た。これは我々が考える常識的な倫理観を真っ向から否定するものである。人間は良い行いをしたところで、そんなもので救いは得られないというからだ。だが、それでは人間の善行はどんな場合も駄目なのだろうか。もしそうなら人が良い行いをすること自体が意味がなくなってしまうだろう。いや。そもそも人間が「良い行い」など出来るのだろうか。ルターは人間の善行についてこう書いている。
 「我々がどれほどの善を行っても、あらゆる人が、生後一日の嬰児でさえも、これ(罪)によって汚染されていることは経験によって実証されている」(前掲書4-7)と。ルターによれば生後一日の赤ん坊でもすでに罪に汚染されているのだから、人間が良い行いなど出来るわけがないのである。また、右に写真を載せた「ルターの根本思想とその限界」の著者、高橋三郎氏は次のように書いている。「ルターは人間の心がいつも不純な考えによって汚染されていることばかりでなく、人間は何か良いことをすると、傲慢という新しい悪に陥るということを知っていた。そして、こんな傲慢は宗教的に見れば、神に対する反抗に他ならない。人間についてのルターの深い認識は傲慢に対して防御手段を持たないという、人間の罪の深淵を暴露したのである。人間はこの傲慢から自分自身の力ではなく、ただ、神の恩恵によってのみ解放される事が出来る」( 山本書店、PP.78-80 )のである。
 世間的にはどんなに素晴らしい善意の行為に思えても、それは結果的に罪の行為にしかならないと言うのだ。これがルターの根底にある人間観である。人間は悪い者、罪を犯す者という前提が染みついているのだ。小生がローマ書を読み、その後ルターの塔の体験を知った時、感じた違和感の根源はここにあると思った。パウロは人間は罪深い存在ではあるが、それはキリストの恵みによってすでに許されていると言うのに対し、ルターは人間とはどうしようもない罪人であり、そこから抜け出せないという観点から出発するのである。
 言い換えればルターは神は信じても人は信じていないのだ。そのことは彼の著作を注意深く読めば、分かってくる。人間は神の怒りを買う罪人でしかないのだ。「私たちはむしろ怒りと刑罰と、そして地獄にこそ値するのに、純粋な(神のー筆者加筆)あわれみによって、価値無き私たちに深い恵みを持って授けられたのである」( 1511年、棕櫚の主日の説教 ) と言う。私たち人間は価値のない哀れな罪深い存在にすぎない。ただ、わずかに神に我が身を委ねているときだけ、救いがある存在なのだ。禅宗で言う「即身是仏」や浄土真宗でいう「極楽浄土」のような強固な救済の世界ともかけ離れた、極めて虚弱な立場に置かれた存在でしかあり得ないことになる。
 ルターは1511年の同じ説教の中で、アダムの罪を無くし、罪の体を破壊するためには「自分を憎み、隣人を愛し、自分の利益を求めず、他者の利益を求める」と言って、隣人への愛をも説いている。だが、それが言葉のうえだけのことは前後の文章を読めば、すぐに分かる。彼は人間である自分自身を徹底的に嫌っているのである。自分を憎む人がどうして隣人を愛することが出来ようか。
 ルターが愛する人とは、彼の考えに同調する人に限られ、敵対する人には烈火のごとき激しい敵意と憎悪を発揮し、殺すことも辞さない攻撃を容赦無く行う。それはキリストが説く万人への愛ではないだろう。それゆえ、彼が神を信仰するのは、神への愛ではなく、己の罪の深さを嫌い、それから逃れようとする逃避の結果でしかないと小生は思い始めているのだ。
 「善を行った者はよみがえって命を受け、悪を行った者は、よみがえってさばきを受ける」(ヨハネ福音書 5-29 ) という言葉はルターの中では、悪を行ってさばかれる者だけが受けいれられる。なぜなら人はどんなに善良な行為をしようと、罪深い結果にしか到達しえないからだ。ここには抜き差しならない人間への不信がある。キリスト教で最も大切とされる隣人への愛、思いやりが欠けているのだ。
 このことについての小生の考えは、明日続けて行う予定。
by weltgeist | 2009-01-30 16:48


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