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内に潜む北方への憧れ (No.304 09/01/08)

 若い頃は寒さに強くて、冬でも半ズボンで平気な人間だった。夏の暑さは苦手だが、寒い分にはいくら寒くても寒いと思わなかったのだ。よく言われるように人間には南方志向と、北方志向の二つのタイプがあるという。さしずめ小生が北方型であるのは間違いない。北の寒い地方へ行くのが大好きで、暑い南は嫌いである。日本国内なら北海道、外国ではアラスカ、カナダ、ロシアからヨーロッパまで、人がほとんど行かないというか、行きたがらない北極圏の極寒と言えるような場所ばかり好んで出かけていた。
 山登りが好きになったのも、高山の寒々しい環境の中で咲く高山植物や、雪と氷で削られた岩肌の荒々しい感触などに心を惹かれたからだ。針葉樹林帯を登っていくと次第に木々の背丈が低くなり、やがてハイマツが現れると、森林限界に達する。それまで視界を遮っていた高い樹木が無くなり、代わって雪渓に被われた谷や砂礫の中にようやく生命を保つ華奢な高山植物のお花畑など、自分をワクワクさせる世界がそこに拡がって来ると思った。だから、身体を壊して山に登れなくなってからも、氷河期の遺存生物と言われるイワナを釣ることにのめり込んだのである。
 ヨーロッパ最北端に当たるノルウエー北部北極圏に行った時に見たあの荒涼とした景色。極限の寒さが作り出す景観は息を飲むほど美しいと思った。アラスカのノーススロープに行った時も同じように感じた。小さなセスナで屏風のように迫ってくるブルックス山脈の狭い切れ込み状に空いた岩峰と岩峰の間をスレスレに飛んで北に抜けた時、足下に高山植物の花が咲いているのが見えた。そして、その先には北極海へ向かってなだらかに落ち込むノーススロープがツンドラに被われて拡がっていた。さらにカムチャツカ半島の標高2000m以上の山岳地帯をヘリで周回して、名も知らぬ高山植物が咲き乱れた景色を上空から観察したことなど、木もろくにない荒れたツンドラ地帯が忘れ得ない光景として脳裏に焼き付いているのである。
 だが、そんな寒冷地好みの小生、近頃だいぶ様子が違ってきている。いつしか猛烈な寒がりになってしまったのだ。それも普通の人がなんでもないと感じるような暖かい日でも急にゾクゾクッとなり、寒気がして身体が震え出すのである。いわゆる悪寒という奴かもしれない。だから、家の中では暖房をガンガン焚き、異常なまで部屋を暖める。自分の部屋にいる時も上着はダウンジャケットを羽織り、ほとんどコタツから出ることもしない。まさにミノムシのような生活である。
 カナダが誇った天才ピアニスト、グレン・グールドは夏でもオーバーを着込み、手袋とマフラーを欠かさなかったと言う。彼の演奏するバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」は素晴らしいが、若い頃この話を聞いた小生、天才と狂気は紙一重だと思っていた。だが、今の小生はグールドが夏でもオーバーを着ていた気持ちが良く分かるようになってきたのである。
 なぜこんな寒がりになったか。思いつく理由が一つある。リタイアして痩せたからだと思う。メタボ、メタボと世間がうるさいから、なるべく太りそうな食物は避け、量もあまり食べないようにした結果、現役時代より3㎏ほど軽くなって、現在は60㎏前後をずっとキープしている。これは自分の高校時代の体重で、身体の上ではベストな重さではないかと思っている。しかし、わずか3㎏とはいえ、これで皮下脂肪の多くが無くなったのではないかと思うのだ。以前は脂肪の肉布団で寒さを防いでいたのが、布団を剥がされ、寒風の中にさらされている感じなのである。
 この数年、東京の冬は温暖化のせいか、以前ほど外気温は低くなっていないが、自分の体感温度はそれでもスキー場並みの寒さに感じる。出来ることなら冬の間だけでも暖かい地方に避寒に逃げられればいいのだろうが、そうもいかない。結局は朝からコタツにずっぽりはまって、本でも読んでいるしかやりようがないのである。天気予報では明日の東京地方は雪だという。明日は朝から外出する予定があるのだが、早くもその予報に小生ビビッているのである。
内に潜む北方への憧れ (No.304 09/01/08)_d0151247_22657100.jpg
昨年の10月にユタ州で初雪に出会った。前日まで半袖Tシャツで過ごせる暑さだったのが、いきなり氷点下になりまごついた。しかし、乾燥した高地の初雪は淡く、日が昇っていくとすぐに消えていった。明日は東京も雪かもしれないと言う。東京の雪もそうあって欲しい。
by weltgeist | 2009-01-08 22:07


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