交差点で右折しようと信号が変わるのを待っていて、黄色になったから曲ろうとしたら、直進してきた車にいきなり「馬鹿野郎」と怒鳴られてしまった。彼は20mも先から黄色信号で突っ込んできて、小生に文句を言ったのである。昨日、人を色眼鏡で見るのは止めよう、相手の気持ちになって考えようなんて偉そうなことを書いたが、「馬鹿野郎」と聞いて、頭に血が上ってしまった。昨日の決意は早くもボロが出てしまったのである。何故自分が馬鹿野郎と言われなければならないのか、しばらく考えた後、そんなことを考えねばならない自分自身に無性に腹立たしくなり、余計気分が悪くなってしまった。
こういう場合、偉い人はどのように対応するのだろうか。昔の禅宗の坊さんなど、無心だから歯牙にも掛けず、平常心がかき乱されることもなかったろう。気持ちは澄み切って、微動だにしない。「無知な人間が何かわめいているな」くらいに思うだけで、心の中に波紋が拡がることもないだろう。 そこまで達観できればすごいと思う。しかし、黄色信号で入った相手の方が絶対悪いと思っている小生は、しばらくは頭にカチーンと来た状態のままだった。相手の立場を考えるなんてとんでもない。今度出会ったらこちらから文句を言ってやるぞ、と思うくらい息巻いてしまったのである。やはり小生は、修行が本当に足りないことになる。昔から気が短く喧嘩早かった性格は、今になっても直っていないのだ。 同じ言葉でも言い方で受ける方は印象が違う。例えば「馬鹿」と言うにしても、仲の良い者同士が、軽い気持ちで「馬鹿だなぁ」と言うのと、憎み合った者が「バッカーーーッ」と言うのでは受ける方も全然違ったものと感じるだろう。後者の言葉には憎しみが込められているからだ。言葉はそれ自体はニュートラルなものだが、そこに盛り込む感情によって受け方が違ってくるのである。 交差点で言われた「馬鹿野郎」には小生に対する怒りの気持ちが込められていた。こうした感情は一瞬で相手の心の奥まで達する。とりわけ怒りや憎しみは伝染しやすいのだ。受けた人は、気持ちがいらつき、次に出会った人にその気持ちをぶっつけやすくなる。憎しみを込めた言葉は、関係ない人の所まで拡がって、皆が不愉快になるのだ。こうして社会全体が刺々しいギスギスしたものになっていくのである。 喧嘩の仲裁をすると、たいがいは相手がひどいことを言った、言わないでもめる。最初に悪口を言った人は、自分は普通の言葉を言っただけで怒られるいわれは無い、と言い張る。だが、受けた方はその言葉に含まれた悪意、棘を敏感に感じ取ったから怒ったのだ。それが、仲裁の時点ではその言葉に含まれていた「悪意」が消されているから、どちらが悪いのか分からなくなる。 言葉はたんなる意味を伝えるものではない。人の心の状態をも伝える「生き物」である。言葉は生きていて、人の心を支配するのだ。だからこそ、我々が言葉を発するときは、相手を傷つけることのないよう注意する必要があるのである。 またまた、今日も偉そうなことを書いてしまったが、自分自身はいつも失敗ばかり繰り返す駄目人間である。こうしたことを書くことで、少しでもまともな人間になろうと、自らに奮起を促しているだけなのである。 フランス、シャルトル大聖堂にて。「ダビンチコード」で作者のダン・ブラウンは、大聖堂の石像は異教徒的な雰囲気があると言うが、我々から見ると東洋の仏像に近い感じがする。これはタンパンの横にあったもので、まだキリスト教芸術が確立していなかった12世紀頃の作品。 撮影データ=カメラ・D70、レンズ・AF-S DX VR Zoom Nikkor 18-200mm F3.5-5.6G 。F/13、1/125秒、ISO400、EV±0。
by weltgeist
| 2008-09-19 22:07
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