9日、10日と新潟の渓流でイワナを釣ってきた。最近はアユ釣りばかりで、渓流、それもイワナは久しぶりだ。イワナ釣りというと、若い頃は重たい荷物を担いで山奥に何日も泊まりがけで行った。長いアプローチを歩き、滝を登り、ガケをへづって行き着いた奥地は、イワナのパラダイスみたいな場所で、人間の姿など見たこともない尺イワナが、なんの警戒心も無しにエサに食いつき、面白いように釣れたものである。
だが、もうそんなことも過去の夢物語でしかない。交通の便が良くなり、誰もが簡単に源流まで行けるようになって、ウブなイワナたちは釣りきられてしまったからだ。かってパラダイスを遊弋(ゆうよく)していた大イワナたちは姿を消して、哀れなくらい小さなイワナしか釣れなくなってしまった。源流のイワナは次第に魚影も薄くなり、釣りの魅力を失っていったのだ。その頃から小生もアユ釣りの方に傾斜して行ったのである。 最近の養殖技術で漁協がイワナを沢山放流をするようになったが、放流する場所の多くは以前と違って、もっと里川の渓流から本流と呼ばれる地域に重点的に行われるようになった。これでイワナが釣れる場所はずっと広くなったが、昔ながらのイワナ釣りを知っている小生にとっては、何か物足りない。イワナが生息していた川は、水の冷たい清冽な川であった。薄汚れてゴミが散乱するような場所にイワナが居着くことなどあり得なかった。それが、最近の放流はこうした場所が多いのだ。そんな汚い川でイワナを釣りたくない。そう思ってイワナ釣りにあまり行かなくなっていたのである。 今回のイワナ釣りはW氏からのお誘いである。このところの大雨、増水でアユ釣りに行く場所が無くなった小生は、「こんな時、もしかしたらイワナがいいかな」と思っていたところへ、W氏からのタイムリーなお誘いが来たので、喜んで行くことにしたのである。 しかし、問題は釣り場だ。気持ちとして、いくら魚が沢山釣れても、水の汚い川には行きたくない。「源流」の雰囲気がある水のきれいな釣り場が希望である。だが、そんないい場所が残っているだろうか。最新情報を持ち合わせていない小生は、昔散々通った新潟県を流れる魚野川の支流群を思い浮かべた。越後湯沢から小出にかけて魚野川に流れ込む何本かの支流の奥は、いずれも水がきれいなイワナの釣り場だった。これらの支流のどこかでイワナの顔くらいは拝めるだろう、という漠然とした期待感だけで関越道、湯沢インターに向かったのだった。 初日は朝比較的ゆっくり家を出たため、釣り場に着いたのは11時半頃だった。すでに陽も高く、イワナ釣りの時間帯としてはあまり良くはない。だが、平日のせいもあって、川に釣り人の姿はほとんどない。林道のどん詰まりから良さそうな場所を見つけて川に降りる。釣れるかどうか分からないが、自分の勘を頼りにミミズで釣り始めると、すぐにアタリがあり、20㎝くらいのニッコウイワナが釣れた。何と、まだ留めた車が見えるような近い場所で釣れてきたのだ。こんな場所は案外盲点になっているのかもしれない。釣り人は車から降りた近くは釣れないと思い、足下を釣っていないのだ。 結局、午後2時過ぎまで、約3時間釣って、イワナは8尾。思ったより好調な出だしに気分を良くしてこの日は納竿。距離にしてわずか1㎞くらいしか釣っていないのだが、久々に大きな石の河原を歩いた疲れを宿のお風呂で癒す。 翌朝は6時起床、7時出発。と言っても釣り場は宿の真ん前。わずか5分でポイントに到着である。ここは道路からは深い草で見えにくくなった場所で、人もあまり入らないのだろう。草が茂ったヤブをかき分けて川に降りて行くと、ひっきりなしに蜘蛛の巣が顔にかかる。しかし、河原に降りると周囲は案外開けて釣りはやり易すそうだ。 今日の川は、昨日より石が小さく、イワナと言うよりヤマメの渓相をしている。雰囲気はちょっと里川的で釣れるかなと思いつつ第一投。浅い瀬だが、対岸に深い溝があり、ここにイワナが潜んでいると思ったのだ。だが、これは不発。その上の小さな落ち込みで、本日最初の1尾目がくる。サイズは20㎝を切る小型だが、イワナの魚影は濃いようで、この後はポイントごとにアタリがある。今日の川選びも成功したようだ。しかし、こんな宿の近くでイワナが簡単に釣れるのは驚きである。 仕掛けは昨日の物をそのまま使う。ミチイト0.4号、エサも昨日と同じくミミズである。いつもは0.15号以下の極細を使っているから、こんなに太い糸だと少し違和感があるが、糸が太いから掛かったイワナも安心して引き抜ける。また、川底の石に仕掛けが引っかかっても、竿を強くあおれば案外糸が切れることなく外れる。極細糸だと、引っかかる度に糸が切れて仕掛けが駄目になる。このトラブルが無いだけでも有り難い。 ミミズの食いは抜群で快調に釣れてくる。そして、釣り始めから200mも上流に行った行った何でもない場所で、思いもよらない魚が出た。わずか50㎡くらいの狭い所以外にイワナが居れそうもないような場所で、全然期待していなかったのだが、まるで根掛かりしたような強い引きで泳ぎ回る奴が掛かったのだ。 しかし、0.4号の糸だから取り込みは余裕である。それでもバレてはいけないと、慎重を期してタマアミですくい取る。ジャスト30㎝の尺イワナがこんな所に残っていたのは意外だった。釣り人は大型イワナを求めて奥へ奥へと行きたがるが、まさに照顧脚下、灯台もと暗しである。足元にこそ目指す大物はいたのだ。 この日、もう1尾、これは尺を少し切るサイズを含めて10尾ほどのイワナを釣ったところで釣りはやめる。もう十分満足したから竿を仕舞い、後は花に集まる蝶の飛翔写真を撮って過ごした。釣り仲間のW氏はそんな小生を呆れた風に見ていた。自分は魚野川のイージーな釣り場ということで、全然期待していなかったのが、思いがけない尺イワナとも出会えた。もうそれだけで今回の釣行は大満足だと思ったから、竿を仕舞ったのだった。
by weltgeist
| 2008-09-11 23:29
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