恐れていた腰痛が雪かきでやはり発症した。雪は思ったほど積もらなかったけれど、水分を沢山含んでいて非常に重く、これが腰にもろに負担をかけたのだ。まったく雪なんて降ってほしくない。とんだ疫病神である。おかげで今日は腰だけでなく、腕や首まで痛くなってしまい、日課の散歩も出来ずに中止した。
腰の痛みのことを英語でbackache(バックエイク)と言う。普通、バックは背中を意味するが。アメリカでは腰もバックに入るらしい。腰も背中も区別しない、全部ひっくるめてバックエイクなのだ。それで思い出したのが、ドイツの作曲家ヨハン・セバスティアン・バッハだ。バッハのことを英語でやはりバックと言う。ただし、こちらのスペルはBachで、Backではない。ckに対してchなのだ。発音は微妙に違うかもしれないが、小生の耳では両方は同じ「バック」に聞こえる。ヨハンは英語ではジョンだから、彼のことをアメリカ人はジョン・セバスチャン・バックと呼ぶ。 そんな訳で、バックエイクに悩む小生、今日は散歩を止めて、家でバック、すなわちバッハを聴こうと思いついた。バックエイクがバックミュージック鑑賞を呼んだのである。(ははは、いやはやひどい駄洒落だ・・ バッハの音楽は比較的なじみ易い反面、ポリフォニーと呼ばれる複数の旋律をからませる独特の対位法で、どれも同じ曲のように聞こえると不平をいう人がいる。でも、同じようでいてそれぞれの曲は全然違う。バッハはものすごく沢山の曲を書いているが、その多くが名曲と言われるすごい曲ばかりなのだ。 今日、小生が数あるバッハの作品から聴いたのは「マタイ受難曲」である。 「エッ、受難曲? 何それっ? 」て聞かれそうな、一般受けしない地味な曲であるが、実はマタイ受難曲は数多あるクラシック音楽の中で最高傑作と呼ぶ人が少なくない名曲中の名曲なのだ。日本が誇るあの偉大な作曲家・武満徹も「マタイ受難曲が最高傑作」と言っていたから、最高という評価は間違いないだろう。 受難曲とは、18世紀、文字を読めない人でも新約聖書のキリスト受難が分かるように作った宗教音楽劇である。難しい聖書の話を分かりやすい音楽にして聴かせる。舞台衣装や演技もなく、ただ音楽を演奏するだけのオペラの卵のようなものと思えばいい。これで一般信者に聖書の話を理解させたのだ。それは教会のステンドグラスに描かれた聖書の物語と同じで、信者啓蒙の一手段であったのである。 ライプツィッヒの聖トーマス教会音楽監督であったバッハは、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つの福音書に音楽とせりふを入れることで、劇的な受難曲を完成させた。当時、バッハは4つの福音書それぞれに作曲したと言われている。しかし、現在楽譜が残っているのはマタイ受難曲とヨハネ受難曲だけで、ルカ受難曲は消失、マルコ受難曲も台本しか残っていない。 マタイ受難曲はイエスがローマの役人、ピラトに捕まり十字架に架けられる直前、いわゆる最後の晩餐を扱う26章から始まり、処刑されて埋められる27章まで、たった2章分を2時間弱の長い音楽劇として作曲したものである。聖書の言葉にメロディーが付けられ、管弦楽と合唱とソロ歌手の歌声などが荘厳な音を響かせる。この演奏形式は、慣れないと一瞬奇異な感じを受ける。しかし、身を入れて聴いていくうちにどんどんバッハの世界に引き込まれていく素晴らしい曲である。 今回小生が聴いたのはカラヤンが1972年にベルリンフィルを指揮した古い3枚からなるCDである。カラヤンの演奏はちょっと古くさいが、それでも世界最高と言われる名曲の音に身を沈めると、腰が痛いのも忘れて、天国へ昇って行くような気分になれる。やはりバッハは素晴らしい。そう感じて幸せな一日を終えたのだった。 マタイ受難曲を聴くなら、日本語字幕の付くDVDがいい。CDだとドイツ語の歌詞が何を言っているのか分からず、これが初めて聴く人には鑑賞の妨げになるからだ。言葉の意味が分かるとずっと入りやすいだろう。お勧めの名演奏はカール・リヒター指揮だが、これは少し古い。最新では鈴木雅明指揮、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏がいい。 写真左。バッハが音楽監督をしていてたライプツィッヒの聖トーマス教会。マタイ受難曲は1727年、ここで初演された。写真の左側には道路をはさんでバッハ・アルヒーフ(資料館)がある。 写真中。トーマス教会の内にはバッハのお墓(手前)があり、記念年なのか花を絶やさないように飾っていた。 写真右。バッハが生まれたアイゼナッハは、フランクフルトとドレスデンの丁度中間くらいに位置する、旧東ドイツの小さな町でたいへん美しかった。ここには、彼の生家が保存され、今はバッハハウス博物館(後方)となっている。
by weltgeist
| 2008-02-05 22:28
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