新約聖書の最終章、ヨハネの黙示録は、英語では Revelation というが、ギリシャ語の Aπōκάλυψις = Apocalypse アポカリプスという言葉がそのまま英語にもなっている。これは隠されていたものが明らかにされるという意味で、ハイデガーが言うところの真理、αληθεια、Aletheia アレーテアと同じ意味である。つまり隠された真理を明らかにするということである。ちなみに英語で The apocalypse というのはこの世の終わりの日という意味である。 しかし隠されたことが明らかになるだけなら別に恐ろしいことでもなんでもない。実はそれは旧約聖書の時代、ユダヤ人たちがずっと恐れていた世界の終末が明らかになることを意味するのだ。つまり恐ろしい自分たちの終末が現実化するということである。 イザヤ書34章には「世界とそこから生え出たすべてのものよ、聞け。主がすべての国に向かって怒り、すべての軍勢に憤り、彼らを聖絶し、彼らが虐殺されるままにされたからだ。彼らの殺された者は投げやられ、その死体は悪臭を放ち、山々は、その血によって溶ける。天の万象は朽ち果て、天は巻き物のように巻かれる。その万象は枯れ落ちる。」(イザヤ書34:1-4)という預言が語られている。散々悪いことをやり続けてきた人間どもがいずれ神の逆鱗にふれて地獄にたたき落とされる。その恐ろしい世界の終末をパトモス島にいたヨハネが幻視しているのである。 ただ興味深いのはヨハネは世界の終末だけでなく、そのあとにやってくる永遠の救済の場面まで見ていることだ。ヨハネの黙示録、全22章は次の五つの段階を経て救済が達成されまでの過程を書いている。このシーンをメムリンクは「聖ヨハネ祭壇画」の右パネルに描いているのである。 第一段階は世界の終末である。聖書ではこの段階をかなり詳しく書いている。それによれば最初は天に七つの封印された巻きものがある。その封印が解かれない間、世界は罪深き悪に染まったことをやり続けている。しかし、子羊が封印を解くと様々な災いがもたらされる。7人の天使がラッパを吹き鳴らすと世界の崩壊が始まり業火に包まれた地は殺された人々の血の海となる。天上界から地上に落とされたサタンはここを支配し、世界は最悪の場となる。そして7番目の天使が世界を完全に破壊し尽くす。サタンはとらえられ、悪の都市・バビロンは滅亡する。 第二段階、千年王国出現。サタンは鎖につながれ、底なしの淵に閉じ込められる。これから1000年の間、復活した殉教者がキリストとともに王国を統治する。しかし、復活された者は一部だけで、多くの人はまだ死者のままである。 第三段階、サタンの復活。1000年の間底なし淵につながれていたサタンが再び現れて、世界を再支配しようとする。しかし、神は最後の罰をサタンに下し、火と硫黄の池に投げ込み、永遠に抜け出せないようにする。これで世界中から悪が消えてなくなる。 第四段階、最後の審判。神はすべての死者をよみがえらせ、神の玉座の前に立たせる。そして、魂の清さから永遠の命を与える者と、火の池に落とす者に振り分ける「最後の審判」を行う。悪いことをやって火の池に落とされた者は地獄の苦しみを永劫味わうことになるのである。 第五段階、新天地創造。神のみ業はここに完成する。永遠の命をもらった者は尽きることのない至福の日々を送ることができる。「聖なる都、エルサレムが、夫のために着飾った花嫁のように用意をととのえて、神のもとを出て、天から下ってくる」(黙示録21:2)そこには「のろわれるべきものは、もはや何ひとつない」(22:3)素晴らしき新天地が出現して、黙示は終わるのである。 黙示録のハイライトは第一段階の世界の終末である。この段階が一番長く具体的に書いてあるのだが、昨日言ったように、メムリンクはなぜかこの部分は小さく、第四段階と第五段階の救済の場面を大きく描いている。これはたぶんにメムリンクの性格がオドロオドロしたことを好まないからではないかと小生は推測している。上に示したヨハネの顔を見てもその柔和な性格が出ていると思えないだろうか。とても世界の終末を見ている人の顔ではないのである。 以下明日に続けます。
by Weltgeist
| 2014-05-04 23:51
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