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モスクワの旅、その4 (No.1933 14/03/23)

 今回のモスクワ訪問は、ロシア科学アカデミーの人類学者、マリア・メドニコバさんに会うことが第一の目的である。理由は、彼女のお母さんであるロシアきっての魚類学者、ソニア・サバイトバ博士から小生が以前論文を預かっておきながら、ついに日本で出版することができなかったことへのお詫びだ。
 サバイトバ博士から論文をもらったのは1990年の中頃。いただいた論文を日本の雑誌に掲載するつもりでいたのだが、ちょうどソビエトがペレストロイカのあおりでがたがたして、発表の機会を失ったまま今日までずるずると過ごしてしまった。そのお詫びを兼ねてモスクワに連絡したら、残念なことにサバイトバ博士は昨年亡くなって、娘さんがいるとの情報を得て、今回古い論文を持ってモスクワまで行ったのである。
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 午前中は簡単なモスクワ観光をして、午後4時に前もってアポイントをとっておいたマリアさんとサバイトバ博士が住んでいた家で会った。地下鉄タガンスカヤ駅から歩いて行くと、正面に大きな建物が見えてきた。博士はここに住んでいたらしい。しかし、外観からしてすごい建物で、玄関近くの壁には有名人らしい人のレリーフが何枚も張られている。同行した通訳のアレクセイによるといずれも作家とか芸術家、俳優などの有名人だという。建物は歴史的にも名のあるものだそうで、こんな所に住む相手はどうやらすごい人のようだ。
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 右がサバイトバ博士の娘で人類学者のマリア・メドニコバさん。左の黒い猫を抱いているのが彼女の娘でサバイトバ博士の孫のあたるアリサ・ヴィーラさん。なんで母親がサバイトバ、娘がメドニコバ、孫がヴィーラとファミリーネームが変わるのかよく分からないが、どうやらロシアでは必ずしも子供は父親姓を名乗らなくてもいいようだ。
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 マリアさんの家系は19世紀から五代にわたって続く学者一家で、お母さんも娘も超一流のモスクワ大学の教授である。我々がわざわざ古い論文を返すためだけでモスクワまで来てくれたことに感謝して、マリアさん手作りのロシア料理で歓待してくれた。手前にいるのが今回のモスクワ訪問を助けてくれた通訳のアレクセイ。英語がまったく通じない国でロシア語を話せる彼の手助けがあったから何とかマリアさんとの面会もできた。彼のヘルプはこの日だけであったが、たいへん助けられて感謝している。
 歴史的な建物だけあって部屋の中も落ち着いたいかにも名門学者の家という雰囲気であった。小生はこのあともう一人別な昆虫学者の家も訪ねるのだが、彼の家も外観は古いアパートをリフォームしてしゃれたものに改装してあった。ロシア人はこのようにして自分の家を住みやすいように変えていくのではないかと思われる。
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 左上がソニア・サバイトバ博士。ソビエト科学アカデミーきっての魚類学者で、生前は極東の魚類まで精力的に研究していたが、昨年亡くなったという。残念ながら生きているうちに彼女に会うことはできなかった。下はマリアさんが今調べている中央アジア、アルタイ山脈のデニソワ洞窟で発見された4万年前のデニソワ人について彼女が書いた本。
 彼女によればデニソワ洞窟で発見された二体の骨から抽出したDNAから、現生人類であるホモ・サピエンスとは別種別系統の人類とされる「デニソワ人」について、最近行われた遺伝子解析の結果から興味深いことが分かってきたという。現生人類の祖先と交雑していた可能性が高いことが判明したというのだ。
  マリアさんは我々の訪問の二日前までウイーンの学会で、このデニソワ人についての研究発表をしてきたばかりだそうで、そのとき使ったパワーポイントを見せながら小生のような素人にアレクセイの通訳を通して教えてくれた。それによればかってホモサピエンスはアフリカを起源に世界中に広がっていったが、一方で別な人類、ネアンデルタール人はヨーロッパを起源にし、進化の過程でホモサピエンスに淘汰されていく。しかし、これとは別な古人類がアジアを起源に発生した。これがデニソワ人である。
 ところで、生物学的に種が違えば、彼らが交雑することは不可能である。ところが、デニソワ人のDNAを調べたところ、現在のパプアニューギニアやオーストラリアにいる原住民のDNAの中にデニソワ人のDNAが何%か見つかり、ホモサピエンスと交雑があったのではないかという。ここまでくると種の定義から見直さなければならない重大な問題を含んでいる。そのようなむずかしい話を小生にしてくれて、マリアさん訪問はすごく収穫の多い物だった。
 ただ、この問題で小生はあくまでも素人。デニソワ人についてもっと知りたい人はナショナルジオグラフィックの記事を読んで、種とは何か、人類とは何かを考えてください。


モスクワ旅行、もう少し続きます。 


by Weltgeist | 2014-03-23 23:50


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