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ジョン・ル・カレ、「寒い国から帰ってきたスパイ」 (No.1899 14/02/01)

ジョン・ル・カレ、「寒い国から帰ってきたスパイ」 (No.1899 14/02/01)_d0151247_22252503.jpg アメリカの新しい駐日大使がケネディ大統領の娘、キャロライン・ケネディさんとなり、女性らしい穏やかな振る舞いが日本国民に気に入られているようだ。父のケネディ大統領がダラスで暗殺されたのが1963年11月22日である。しかしこの翌年にジョン・ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ The Spy Who Came in From the Cold」が出版されている。
 ケネディが暗殺される一年前、62年にはキューバ危機があり、アメリカを中心とする西側諸国と共産主義を掲げるソ連を中心とする東側諸国の対立は核戦争寸前までいく極度の緊張状態にあった。ケネディ暗殺の背後には東側諜報機関の関与が取りざたされていると噂されるような東西冷戦まっただ中にこの小説は発表されたのである。
 「寒い国から帰ってきたスパイ」はそんな時代背景の中で、東ドイツの諜報機関と英国の諜報機関が闇の世界で死闘を繰り返すスパイ小説の最高傑作である。当時まだ大学生だった小生は、スパイについての予備知識もなくこの小説を読み、圧倒されるほど強烈な印象を受けた覚えがある。
 「タイム誌」は書評で同誌が創刊された1923年以来現在まで英語で書かれた小説の史上最高傑作100冊のなかにこの小説が入ると言っている。出版から50年過ぎた今読み直しても十分面白く、スパイ小説の最高傑作の地位を保ち続けている優れた作品という評価に小生も異論はない。
 物語はイギリス秘密情報部アレック・リーマスと東ドイツ諜報部副長官ハンス=ディーター・ムントの恐ろしく複雑に入り組んだスパイ合戦の話である。ベルリンで東側に送り込んだスパイを殺されて情報部を免職になったリーマスに、ムントの指示で東独スパイが接触してくる。英諜報活動の情報をリーマスから聞きだそうとしているのだ。だが、これは表向きで、実はリーマスは東に情報をばらすと言いながら、二重スパイとなって東独諜報部に食い込み、仲間を殺した憎きムントの抹殺を試みているのである。
 この後の展開はめまぐるしく、「エッ、何で? 」と思うようなことの連続で、スパイ小説の醍醐味を存分に味合わせてくれる。とくに最後の大どんでん返しは唖然とさせられ、冷戦下のスパイはここまで過酷なことをやるのかと驚いたものである。
 どんでん返しは、この小説を読む人のために明かさないが、以前書いたヘミングウエーの「フランシス・マコーマーの幸福な短い生涯」の大どんでん返しと同じくさすがは最高傑作と言われるだけのことはあると納得させられるできである。
 ベルリンの壁が崩壊したのが1989年、ソヴィエト連邦崩壊は1991年12月である。わずか22年前まで東西の冷戦状態は存続し、同じようなスパイ活動をお互いに続けていたことだろう。いや、エドワード・スノーデンがアメリカ中央情報局・国家安全保障局による情報収集活動を今も続けていることを暴露している。
 鉄のカーテンと呼ばれる秘密主義に隠された向こう側には寒く冷たい国があった。その国はいまはすっかり自由に解放されたはずである。来週からソチでは冬期オリンピック大会も開かれる。しかし、現実には暗い過去の政治の残滓はまだ残っている。自爆テロの恐れは消えていないのである。実は小生、まもなくしたらこの「寒い国」に出かける予定が入っている。自爆テロなどに巻き込まれることなく無事に「寒い国から帰ってきたミネルバ」であって欲しいと願っている。
by Weltgeist | 2014-02-01 23:19


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