ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」が終わって一段落した本日、図書館からまたちょっと読みにくい本を二冊借りてきた。マックス・シェーラーの「宇宙における人間の地位」と、エルンスト・トレルチの「ドイツ精神と西欧」だ。シェーラーはフッサールのもとで現象学を学び、のちに「人間の理念、および諸道徳の構築におけるルサンチマン」という本を書いている。アーレントが指摘した全体主義の起源が他人を嫉妬し、恨みに思うルサンチマンから来ているということから、アーレントをもっと良く理解するためにもぜひ読んでみたいと思っていた哲学者の著作である。
もう一方のトレルチは神学者、歴史哲学者として、ナチが生まれてくる前段階の20世紀初頭のドイツについて書いている。彼がこの頃のドイツをどのように見ていたのか、そしてナチの台頭をどのように見逃していたのか、たぶん「ドイツ精神と西欧」には書いてあるのではないかと思い借りてきたものである。 しかし、現代ではこの季節はクリスマスである。12月24日のクリスマスイブまでどこもクリスマス一色で、日本中ににわかクリスチャンが出現する。町中にジングルベルが鳴り響き、きよしこの夜の歌声があちらこちらから聞こえてくる。もちろんそれにかこつけて飲んだくれている酔っ払いは、クリスマスの意味など考えることはないだろう。そうして、25日になると、日本中が気分を一新して今度はお正月の初詣でにどの神社へ行くか、計画を練り始める。まことに一貫性のない国民で、基本的には何も信じていないのである。それだから神社にお参りしたところで御利益なんか全然ないのだけどね・・・・。 クリスマスの由来は言うまでもなく救世主、イエス・キリストが誕生したお祝いの日である。クリスマスイブ前の4週間をアドベントと呼んで、教会では4本のローソクを用意しておき、毎週日曜日ごとに1本ずつ火を灯していく。そして4本目の火が灯されたところで救世主の誕生を祝うのである。 イエスは粗末な馬小屋で処女であったマリアから生まれたとされる。どうして処女が子供を宿し、産むことができたのか。常識から考えればあり得ないことだが、このことをキリスト教徒は心から信じている。言い換えれば、こうした常識外れの処女懐胎を信じるか否かが、キリスト教徒になれるかどうかの分かれ道となるのである。 ルカ福音書にこのときのことが次のように書かれている。 神の御使い・大天使ガブリエルがマリアの家に「入ってくると”おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにおられます”(と言う)。しかし、マリアはこのことばにひどくとまどって、これはいったい何のあいさつかと考え込んだ。すると御使いが言った。”こわがることはない。マリア。あなたは神の恵みを受けたのです。ごらんなさい。あなたはみごもって、男の子を産みます。名をイエスとつけなさい。その子はすぐれた者となり、いと高き方の子と呼ばれます”」(ルカ福音書 1:28-32)と書いてある。 常識あるあなたが知り合いの女性から「天使に、”神の子を宿った”、と言われたわ」と聞かされても絶対信じないだろう。そんなばかげた話はほらに決まっていると思うのが当たり前である。 だが、それは世間一般の常識的な判断だからで、「常識」に疑問符を持っている人は違った判断をするかもしれない。本当に神がなしたことなら否定できないと考える人たちがいるのである。なぜなら神はちっぽけな人間存在を越えた絶対的な存在だからだ。人間の常識を超越しているから、常識的な判断など意味をなさない。キリスト教徒はまさにこのことをまじめに信じているのである。 ここで処女懐胎などあり得ないと主張しても論議はかみ合わないだろう。人間理性の限界を越えて、その先にある超越者を信じている人には別な判断基準があるからだ。常識的な枠の中にとどまって判断する人には、理性的、合理的、科学的に考えても絶対にあり得ないことである。だが、それは確かにあったと信じる人がいる。彼らとは水と油で、議論しても意味はないのだ。 常識を越えたことを信じる、これが信仰の本質である。常識的に考えることと信じることは次元が違うのである。神の恵みを信じる人はこのアドベントの時に神の臨在を実感し、クリスマスの意義を静かに祝うことだろう。
by Weltgeist
| 2013-12-01 23:54
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