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パミール高原に幻の蝶を求めて、10、山の靴屋さんティロ (No.1760 13/08/20)

 昨日のキャンプ場までの登りはとてもきつかった。とくに**氏はひどい下痢に悩まされていたので余計つらい登りであったろう。ところが、小生も昨晩同じ症状になってしまったのである。夜、テントに入って寝ようとしたときいきなり吐き気がして夕食に食べた物が全部喉に逆流してきた。あわてて外に出てゲーゲーと嘔吐をするが、その嘔吐感がいつまでも止まらない。胃の中にある物全部を吐き出しきっても止まらないのだ。そして、続いて腸のあたりが猛烈に痛くなり、下痢が起こってきたのである。
 これは**氏とまったく同じ症状である。ということは、同じ食べ物に当たったか、飲んでいる水が悪かったのかどちらかだろう。だが、一日先に病気になった**氏はそれは違うという。申し遅れたが実は**氏は内科のお医者さんで、胃腸病はお手のものである。彼の診断によれば食あたりでもなければ水が悪かったのでもない。過労で胃腸が弱っているところに食べたので胃腸が拒否反応をしているというのである。こういうときは胃腸薬を飲むより休養に努め、給水を怠らないことだという。必要なことは静養。水を沢山飲んで無理をしないことなのだと言われた。とにかく我々は異常と言えるほど疲れ切っていたので胃腸がびっくりしたのも当然なのである。
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小生も昨夜から突然襲ってきた腹痛と下痢に一晩中悩まされ続けた。朝になってガイドのムキムがおいしそうな朝食を作ってくれたが、全然食欲が起こらず食べられない。**氏も小生も朝食は熱いお茶だけですます。実はこの朝から丸二日間、小生はまったく食事をとれない絶食状態を強いられたのである。
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そして、一難去るとまた一難がやってくる。昨日のガレ場歩きで小生のトレッキングシューズの底が剥がれかかってきたのだ。日本を出るときは全然気にしていなかったのだが、今までよくもこんな靴で山を歩いて来たものだと感心するほどボロくなっている。このまま放っておくとすぐに底が取れて、最後は歩くこともできなくなるだろう。こんな山のなかでそんなことになったら、またまたたいへんである。
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だが、小生の靴を見てアレックスが「ティロは靴を直すのが上手だ。彼なら何とかしてくれるだろう」と言ってティロに見せている。彼は小生の方に向かって親指を立てて大丈夫、まかせろという仕草をしてから、道具ボックスの中から靴の修理具を取りだして剥がれた部分を縫い合わせてくれた。多分、革製品を修理する道具だったのだろうが、こうした山の中で何でも器用にこなすティロは頼りになるすごい男である。 
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バッチリ縫い合わされた靴。これで当分は安心して山歩きができそうである。ティロ、ありがとう。 
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靴は直ったけれど、小生の胃腸の調子はさらに悪くなってきた。全然食欲がないし、食べても全部吐いてしまう。下痢も治らない。アレックスたちは朝食後ネットを持って採集にでかけて行ったが、小生も**氏も山を歩く元気はない。しかし、アウトクラトールの生息地まで登って来たのだ。遠くは無理としてもテント場に近い場所ならと、二人で無理してテン場脇の斜面を登り始めた。
だが、歩けない。何も食べていないから体にまるで力が入らず、テント場がまだ足下に見える高さまで登るのに1時間近くかかってしまった。写真は本日登った最高到達点の少し下で撮ったものである。下の方にネットを構えている**氏が見えるが、小生のところまで登ってくるのはきつそうである。アレックスが言ったアウトクラトールの場所などとうてい行けそうもない。病人の二人にはこの付近でお茶を濁すことで精一杯なのだ。だが、それでもこの斜面で待っていると、ときどきパルナシウスが飛んで来る。そのうちの1頭を首尾良くネットですくったらとてもきれいなカルトニウスだった。残念というか幸運と言ったらいいのか、これが小生の本日唯一の成果だった。

by Weltgeist | 2013-08-20 23:57


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