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偉い人たちの口喧嘩 (No.1289 12/01/21)

偉い人たちの口喧嘩 (No.1289 12/01/21)_d0151247_21544835.jpg 芥川賞受賞会見で今回受賞した田中慎弥さんの「もらってやる発言」はたいへん面白く、楽しませてもらった。今まで何度も候補にあがっていながら受賞できなかったので今回の受賞は「私がもらって当然だ」と言ったことに、マスコミ連中が面白おかしく突っ込みを入れていた。
 芥川賞選考委員の石原慎太郎東京都知事が「自分の人生を反映したリアリティーがないね。ばかみたいな作品ばかりだよ」と言ったことをどう思うかと聞かれ、田中さんは「これだけ落とされて、断ってしまいたいところですが、断りを入れて気の小さい選考委員が倒れてしまうと都政が混乱しますので、もらっといてやる」と、ちょっと酔っ払いの喧嘩のような口調で言っていた。
 これを聞いた当の石原知事は、「ハッハッ、いいじゃない皮肉っぽくて。作家はそのくらい個性的でなければ駄目だ」と笑いながら受け流していた。しかし、一矢を打ち込まれたことは間違いないようだ。石原知事は、平静を装いながらもこのあと芥川賞選考委員をやめている。あの傲岸不遜な知事も多少は感じるところがあったのかもしれない。
 だが、二人のやり合いを一般人の立場で言わせてもらえば、どっちもどっちである。作家が個性的であることは必須かもしれなが、一応社会の一員である以上、それなりの態度をしないと単なる無頼漢同士の口喧嘩にしか見られない。田中さんの挑戦的な態度も、石原知事の相変わらず「おれより偉い者はいない」的な態度も同様、低レベルのくだらないもめ事以上のものにはなりえない。
 しかし、それでもこの言い合いを見ている小生などは、「面白い、もっとやれ、やれーっ」と言って高みの見物をしたい心境である。
 人の表情は常に変わっていくが、表情の原動力は心である。顔は心の表れである。ふてぶてしい態度を取ることは気持ちにふてぶてしさがあるからそういう顔になるのである。タヌキオヤジの石原知事はニヤリと笑っただけだったが、田中さんはストレートに顔にそれが出てしまった。まだ若いからかもしれない。
 人間には不愉快なことがあっても顔に出さず、それをコントロールする力も合わせ持っている。人に心のうちを読まれない余裕だ。田中さんは記者会見の席で平然とした顔で石原発言に反論すればよかったのに、感情が先走ってしまった。ま、石原知事に面と向かって反論するにはああいう照れ隠しの態度で言うしかなかったのかもしれない。
 客観的に勝負を見れば一枚上手のタヌキ役者には負けている。そのうえ記者会見で我々一般人に「変な人」という印象を与えてしまった。しかし、作家としてはそれでいいのかもしれない。今回の件で田中さんの作品「共食い」が余計注目されて本は売れるだろうから。だが、会見を見て読むのを止めた読者(小生はその一人)もいるはずだから、どちらがいいのかは分からない。そして、もし彼が大人に成長して「したり顔」ができるようになったとすれば、そのとき彼の才能は枯渇するかもしれない。ああいう態度だから小説も書ける。作家とは気の毒な職業の人なのだと思う。
by Weltgeist | 2012-01-21 22:02


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