人気ブログランキング | 話題のタグを見る

経済が発展すれば人は幸福になれるか (No.1286 12/01/18)

経済が発展すれば人は幸福になれるか (No.1286 12/01/18)_d0151247_20314633.jpg
 今朝の朝日新聞でフランスの経済学者、ダニエル・コーエン教授が人間の幸福と経済成長との関係で興味深いことを書いていた。彼によれば「19世紀以前、人々は貴族などごく一部の人を除いて現代の最も貧しい人々と同じレベルの収入で暮らしていた。この間に経済は成長したが、それは人口増加に寄与しただけで、一人一人の所得は増えず、人々はずっと貧しいままだった」という。昔の人はその貧しさのなかで幸せを見つけていたのである。
 ところが19世紀になって経済は著しく成長し、それまでとは違うメカニズムが急速にできてきた。一人当たりの所得が増えるようになったのだ。だが、それなのに一人一人の幸福は増えていかなかった。「かっては社会が豊かになれば人口は増えるが、一人一人は貧しかった、今、同じ言い方をすれば、経済が成長すれば一人一人はより多くの財を手にできるが、より幸福にはならない」というメカニズムができたというのだ。
 経済が成長して豊かになったが幸せにはならなかった。それは例えば新しいカメラを買った時に似ている。買った直後はうれしいが、すぐに飽きてしまう。人を幸せな気分にするのは成長していくこと自体であって、豊かさそのものではないからだ。到達点がどこかは重要ではない。重要なのは「もっともっと」という感覚である。つまり、「もっともっと」と頑張って成長していくときに幸せを感じるのである。
 だから大きな幸福感は残念ながらすべてを破壊する戦争のようなものの後に顕著に得やすい。大震災のあと、「がんばろう日本」といって国民が高揚感に満ちて立ち上がったときのようなものである。この逆説的、シニカルな現実がわれわれの生きている世界だというのである。
 中国は日々、貧困から脱しつつある。成長している人にとってこれほど喜ばしいことはない。しかし、今なお欧州の人間は中国人から見れば、信じられないくらい豊かである。その欧州で中国人のような幸福感がないのはなぜか。欧州は経済がどんどん成長することで幸福を感じてきた社会である。それが今の停滞とうまくやっていくことができないのだ。
 経済が発展すれば人は幸福になれるという中毒症状から抜け出すには、自分たちの欲望を操っている法則を理解し、行動しなければならない。我々の快楽が「もっともっと」からくることを理解し、欲望を制御しなければ、やがてはエコロジー上の大災害につながるだろう。人間が成長のない世界に向かうことは考えにくい。しかし、今までとは本質の異なる理にかなった成長、物質的でない成長を目指さざるを得ない、と結んでいる。
 「もっともっと」とは物欲を限りなく追求することではない。我々はものすごいまでの財を手にしながら一向に幸せ感を得られていないではないか。経済が発展すれば人は幸福になれるという幻想を捨てて、真に幸福な生とは何かを追求すべきときであろう。
by Weltgeist | 2012-01-18 22:24


<< シジュウカラの夫婦 (No.1... 心地良い疲労回復 (No.12... >>