2009年の民主党マニフェストで約束した公約がまた一つ取り消されそうである。マニフェストに従って当時の前原国土交通相が「八ッ場ダムの建設を中止する」と宣言したことが、13日に開かれた国土交通省関東地方整備局の検討会で覆されそうな状況になってきた。都内で開かれた検討会には、群馬県の大澤知事を初めとする一都五県の知事、副知事が参加して行われたという。
検討会では、八ッ場ダムを建設する場合と、建設せずにほかの方法で利根川流域の治水、利水対策を行った場合のコストを比較した結果、ダムを中止すると1000億円ほどコストが高くなるとの試算を出した。八ッ場ダムを建設した方が1000億円安くすむといういうのだ。 だが、安くなると比較した工事とは、14日の朝日新聞朝刊によれば「群馬県伊勢崎市から東京湾まで100㎞の地下水路建設や、40年かけて静岡県の富士川から導水路を建設するなど、ダムより大がかりな工事を盛り込んで、費用を算出した」もので「治水の基準や水需要の予測が自民党時代と変わっていない」と書いてある。こんな馬鹿げたことをやればお金の掛かるのは当たり前である。 それなのに前田国土交通大臣は、13日の閣議のあとの記者会見で、「地元の知事の意見は重いと思う」と述べ、この評価結果を十分に踏まえて、最終的な結論を出したいという考えを示した。彼はダム建設の是非を銭金(ぜにかね)の問題に置き換えた国交省役人の言いなりになって「建設中止の中止」を提案しそうである。役人主導の政治から政治家主導に立ち返るというマニフェストの理念はどこへ消えたのか。知事の声よりマニフェストを支持した国民の声の方がずっと重いことが分からないのかと言いたい。 検討会の提言に怒ったのは建設中止の検討を決めた当時国土交通大臣であった前原誠司政調会長だ。「当時の大臣に事前の説明がない。極めて不愉快だ。新内閣ができて10日目に出して来るとは」と反発しているという。真っ当な政治家なら当然だろう。 小生は民主党が総選挙で自民党を破り政権についたとき、真っ先に八ッ場ダム中止をとりあげたことに今度の政権は何かやってくれそうな期待を持った。その時の感想を(No.504)の八ッ場ダム中止について思うことというテーマで、以下のように書いている。 「民主党が言うように、ダムは要らないという主張は正しいと思う。民主党がマニフェストに書いたことを国民が撰んだのだから、「ダムは要らない」は国民の民意だと自分は思っている。八ッ場ダムに直接利害関係のない人の多くは「八ッ場ダム中止」を支持していると思うのだ。中には「ここまで出来たものなら、いっそ完成させた方が安上がり」という人もいるが、これは正しくない。間違っていると判断したものを作り続けるのは誤りをずっと続けることでもある。悪い物と分かったなら中止すべきだ。まだ実際の堰堤まで出来上がっていない以上、引き返すことは可能なのだ。水の流れが失われる前に中止がなされたことは良かったと思っている。陶芸家は焼き上がった作品を見て気に入らなければハンマーで打ち壊すという。完成間近でも駄目と判断したら引き返す勇気も必要なのだ。」とこのときは思ったのだ。 「八ッ場ダムは要らない」というのは費用うんぬんの問題ではない。ダムを造ることで自然環境がどれだけ破壊されるか、国民は分かっているのである。ダムがあれば洪水は防げるというが、先日大洪水で被害を受けた熊野川水系だって沢山のダムがあった。それなのに洪水を防ぐことができなかったではないか。首都圏の水需要に応えるという主張も怪しい。水は余ってくるからもう要らないという予測があるのだ。第一、ダムで流れを寸断されて水が流れなくなった下流は死の川になってしまう。こんなことに無駄なお金をつぎ込むべきではないのだ。 今回、八ッ場ダム建設にゴーサインが出たら、民主党は自民党と何も変わらない政党になってしまうことだろう。民主党が政権についたとき、国民は自民党とは全然違うマニフェストの理念に期待していた。無駄を廃し、行政改革をし、役人支配の政治から脱却すると歌っていた最初のころの理念はどこへ行ったのか。子ども手当なんてバラマキはどうでもいいが、野田首相がここで八ッ場ダム中止の中止を決定するようなことがあれば、彼も短命な内閣で終わるだろうと言いたい。国民は馬鹿ではないことを肝に銘じてもらいたい。
by Weltgeist
| 2011-09-14 23:48
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