もちろんヒラメは大好きな魚である。「食べる。食べる」と大喜びの返事をしたら、写真のようなまな板からはみ出るほど立派なヒラメをわざわざ家まで届けてくれた。高級魚であるヒラメならこちらから取りに行くべきなのに、我が友はわざわざ家まで持ってきてくれたのだ。まことに持つべきは友達。ありがたいかぎりである。 すでに夕闇迫るころ現れた友は、クーラーの中から無造作に一枚のヒラメをぶら下げて、どうだ、とばかり小生の方に差し出す。千葉県外房沖で本日釣ったばかりの3㎏はありそうな立派なヒラメが燦然と輝いている。彼は全部で6枚釣ったそうで、そのなかの貴重な1枚を小生にくれるというのだ。 ありがたい、ありがたい。このところ釣りはとんとご無沙汰しているので、こんな生々しい魚をみるのは久しぶりだ。さっそく刺身にして食べようと思うと言ったら「ヒラメは釣った直後より少し間をおいた方がおいしくなる。多分明日の夜から明後日あたりが一番いいんじゃないか」とアドバイスまでくれた。ヒラメは刺身もうまいが、ヒレの付け根にある「エンガワ」が最高。大人気の回転寿司で出る偽物の「エンガワ」とは大違いである。正真正銘の本物が明日には賞味できるのである。 ところで、釣り好きな小生、実は昔からヒラメは縁が薄い魚であった。以前、九州五島列島で巨大なヒラメを釣って以来、ずっと坊主を喰らわされ続けている難攻不落な魚である。本日友人は6枚も釣ったというが、坊主が当たり前、うまくいっても2~3枚釣れば上等な部類の魚であった。それを6枚も釣ったというから相当上出来な釣りができたのだろう。 なぜヒラメがそれほど釣れなかったかというと、絶対数が少ないこともあるが、釣り方が難しいのだ。「ヒラメ40」といって、アタリがあってから40ほど数えるまで合わせてはいけない。ゴツゴツと餌を食べる感触が手に伝わってきても、早アワセは禁物。いち、に、さん、し、と40まで数える間、じっくり餌を食い込ませたところで合わせるのがいいといわれている。これが実に難しいのである。 小生がヒラメ釣りに行くと、いつもアタリまではある。ところがアタリがあったとたんに緊張して体が硬直状態になり、送り込みがうまくいかなくなる。餌の生きイワシをかじっているヒラメに妙な抵抗感を与えるらしく、食い込まずに途中で逃げられてばかりいるのだ。ヒラメだって命がかかっているから、変だなと思ったら餌を吐き出してしまう。連中に警戒感を与えず、フッキングまでもっていくのは容易ではないのである。 ところが最近のヒラメ竿は微妙な前アタリから鋭くとらえ、そのあとヒラメに不審感を与えることなく食い込ませる優れた調子の竿ができているという。しかし、小生はそんな優れ物など持ち合わせていない。旧態なままの竿と仕掛けでやっているから、折角のアタリも合わせるまでいかず、逃がしてばかりいるのかもしれない。 「ヒラメ釣りは俺の性分に合わない」と思うようになって、ヒラメ釣りから足が遠のいている間に、釣り方の研究が進んで、昔ほどヒラメは幻でなくなったのだろう。釣りは道具じゃない、腕だ、とわめいていた小生、頑なに最新ヒラメ竿を買わないでいたが、どうやらそれも限界に達したようだ。 カメラだって今はピントを合わせるのもオートフォーカスである。一昔前の人は「写真のピントはマニュアルで合わせる。オートフォーカスなんて邪道だ」と息巻いていた。そうした人は置いてけぼりを食って陶太された。アタリがあったらオートフォーカスみたいに自動的に食い込ませてくれるヒラメ専用竿を購入しないと時代から取り残されそうな感じである。 時はまさにクリスマスシーズン。トヨタの四駆に乗って来た友達が、トナカイのソリに乗ったサンタクロースのように見えた。小生が小学生なら靴下の中に「ヒラメ用の竿が欲しいです」、と書いてサンタが来るのを待つのだが、残念ながらサンタクロースの存在を信じるには歳をとりすぎている。自分のお小遣いで最新のヒラメ竿とリールを買うしかないのだろうか。
by weltgeist
| 2010-12-12 23:43
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