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迷いと決断 (No.746 10/06/17)

 後ろ髪を引かれるという言葉がある。何かを決心しても、心残りで諦めきれない気持ちが残っている時のことをいう。今の小生、まさにその心境である。実は今まで秘密にしていたが、今年の夏はインドのラダックからカシミールにかけての高地に蝶を採りに行く計画を立てていた。それが前から悩んでいた脊柱管狭窄症の病状悪化で昨日中止せざるを得なくなったのである。そのことにいまだに未練たっぷりで、諦めきれていないのだ。
 ラダックはネパールからパキスタンのカラコルムまで続く大ヒマラヤ山脈のインド側高地で、ここにパルナシウスと呼ばれるウスバシロチョウの仲間がいる。とくに去年北パミールでたった一頭しか採れなかったカルトニウスウスバシロチョウが沢山いる場所がラダックにはあるのだ。しかし、去年の北パミールでは最高でも3800mちょっとしか登っていない。それが、今回は5000m以上の高地を登らなければならないのである。
 そんなヤバイ場所に脊柱管狭窄症のひどい痛みがある人間が行けるのか。様々な病院で色々な治療をやっても全然効果がなく、猛烈な痛みに襲われることを何度も当ブログでも書いたから皆さんもそれはご存じだろう。実は先日(11日)高原川に行ったのも、ゆっくり歩けばインドでも大丈夫ではないかということを確かめるためのテストとして行ったのである。このときは予想以上の好調さで、往復10㎞の山道を歩いても、無理しなければ歩けることが分かって、かなりの自信を持ったのである。
 ところが翌12日には前日の反動から猛烈な痛みが腰から足に走ってきたのだ。当日痛みがなくとも、翌日に出てくる。こんなことだと、たとえ数日は歩けても、それを10日以上続けられるかは自信がなくなってしまったのだ。まして酸素が薄い4000mの高山帯を長い間歩くとなると、はたして自分がまともに歩けるかどうかも自信がない。
 小生は今回の計画は、たとえ石にかじりついてでも行きたいと思っていた。絶対中止などするものか、と思っていたのだが、襲ってくる痛みに不安がどんどん高まって来たのである。さらに、カシミールの国境付近は政治情勢が不安定なこととパキスタンからのゲリラも心配の種ではあった。
 そんなこんなで周りにいる人も「危険だから止めなさい」という声ばかりがしていて、小生のインド行きは誰も勧めてくれない四面楚歌の状況になっていたのである。それらを考えると中止という道しか残っていなかったのだ。インドには行きたい。しかし、それにはリスクがありすぎる。そうした危険を無視してまで計画を強行させることはできないと自分でも渋々納得したのである。かくして、昨日のインド行き中止が決定したのだ。
 非常に残念だったが、今回インドに同行予定だった**氏に「すみません。中止させてください」といわざるを得なかった。**氏には今回の中止でたいへんなご迷惑をかけてしまったこと、この場を通じて心からお詫びしたい。
 しかし、そう決めた今でもまだ迷いがある。本当に止めて良かったのか。無理してでも行っておいた方が良かったのではないかという迷いが消えないのだ。いつまでも未練たらしく、諦めが悪い男であるといわざるを得ないのである。
 結論から言えば理性が勝ったのだろう。このまま家にいれば多少の足の痛みはあっても命を失うような危険な目にはあわない。しかし、それでお前はいいのか。納得したのか、と聞かれれば、絶対納得はしていない。ただ現実に負けて仕方なく諦めただけである。
 小生のような人間を往生際が悪い奴というのだろう。あるいはどちらも決められない優柔不断の人間というのかもしれない。とにかく、今でも自分の判断を覆して、「インドに行きます」と宣言し直したいのだが、そうもいかない。今回だけはおとなしく家にいるしかないと諦めているのである。
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昨年、北パミールでたった一頭だけ採れたカルトニウスウスバシロチョウ。インドのラダック地方にはこの蝶の一大生息地があり、今年は心ゆくまで採れると思っていたのだが、どうやらその夢は幻となってしまったようだ。
by weltgeist | 2010-06-17 23:55


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