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草食化日本の将来 (No.727 10/05/16)

 先日、サラリーマンをやっていた小生が課長職を命じられたとき、それを拒否した話を書いた。昭和50年代初頭で出世を断る馬鹿者は小生くらいのものと思っていたら、5月6日にNHKが放送した「激論! 若者VS大人」という番組を見て、今の若者が当時の小生そっくりな考えを持っていることを知り驚いた。
 まず第一に現代の若者は出世したくないと思っている。これってまさに小生が本部長に「課長になれ。ただし、それにはヒゲを剃ることだ」と言われて断った言葉そのものである。NHKによれば2009年に新入社員となった若者にアンケートをとったら、食べていけるだけの収入があればいいという人が47.1%もあったという。だから収入も一ヶ月10万円もあればいいと欲がない。お金への欲望が薄くなっているようだ。
 仕事を探すにも収入の高い低いは気にしない。何故ならお金持ちだから幸せとは限らないことを彼らは知っているからだという。出世したいという上昇志向がなく、仕事より趣味が大切。お金より自分らしい贅沢をする方が幸せなのだ。今の若者のキーワードは普通であればいいである。小市民化が大勢なのだ。彼らは一日が仕事だけで終わるのは意味がない。生活はやらなければならないから、オンオフはしっかり切り替えているが、酒も飲まず、車も持たず、仕事が終わればサッサと家に帰り、自分のやりたいことをやる。仕事を終えたらできるだけ早く自宅に帰るのは20代が一番多く71%もいる。仕事より趣味、職場より自宅なのだ。このへんも当時の小生とほとんど変わらない考え方である。
 番組ではそうした考えを持つ若者に対して40代以上の「大人」が「若い皆さんは幸せ過ぎる。甘え過ぎだ。皆さんが普通の生活を望むなら、普通以上の努力をしなければそれも得られない」とか「足(たる)を知る生活もいいが戦う生活も必要だ。みんなは足を知ることで満足するというが、では誰が食べさせるのか」「平社員でいいや、というのは、決められた仕事をやるだけでいいという発想だ。上に行くということは高い意志決定ができる立場になることでもある。それを望まないのか」と反論していた。
 この番組を見た小生と同年代の人たちはきっと腰を抜かすほど驚き、「大人」側の意見に「そうだ、そうだ」と肯いたのではないだろうか。40年前に今の若者と同じような考え方を持っていた、いわば先輩である小生も実はびっくりしてしまったのである。小生の頃は非常に少数の異端者にすぎなかったのが、今は社会的には普通になっているらしいのだ。
 もっとも、番組に出演した「若者」が今の若者全員の意見を代表しているかどうかは分からない。もしかしたら、NHKが草食系の人だけを意図的に集めたのかもしれないし、「大人」の方も良識的な意見の人だけを集めたのかもしれない。そのあたりは分からないが、少なくとも日本国の現状が大きく変わってしまったことは間違いないようだ。ある大人が言ったように、今の若者は幸せ過ぎる、恵まれ過ぎていることが、こうした人間を生んだと言えよう。
 当然のことながら日本の経済成長力は低下せざるを得ない。2000年度のGDPは日本は世界3位だった。それが2008年には19位まで下がっている。これが世界の中の日本の現状である。今の若者の状況がごく普通のものだったとすると、さらに日本は低下傾向を強めていくことだろう。
 番組は最後のまとめで批評家の宇野常寛氏が「まず言っておきたいのは、経済成長は今の日本にもあった方いいとは思う。しかし、草食化が日本を滅ぼすという考えこそが今の日本の経済成長を阻害していると思う。戦後の高度成長期の日本は草食系もいれば肉食系もいた雑食系社会だった。草食系は無理矢理肉を食わされたし、肉食系は出る杭とみなされ、たたいて引きづり降ろす社会だった。昔は本当の肉食的な生き方は出来なかった。なぜそうした雑食を強要する社会になったかというと、戦後みんなが一緒でなければいけないというような考えがあったからだ。しかし、今は草食系が多いにしても、肉食系もいるのだから、こいつらの足を引っ張る邪魔をしなければいいと思う」と言う発言には納得した。
 とにかく日本の成長力が落ちて他国から置いてけぼりを食う状況はこの番組を見て強く感じた。しかし、40年前に草食若人だった小生を思い出すと、確かに今の若者と共通した所は多いが、一つだけ違ったと思うのは、自分は出世は拒否したし、仕事が終われば酒の付き合いもせずにさっさと家に帰り、夜はひたすらバイトの雑文書きに身を入れていた。今の若者と同じように結婚して7年間車も持たず、自分のやりたいことをやり通したけれど、それと同じくらい仕事にも精を出したことである。
 そのことで結果的には人にも多少は認められたし、自分のやりたいことをやって来たという充実感もあった。最後の方で40代の人が「自分の充実感とは仕事を一生懸命やって結果的に仕事から得るものだ。それで感謝されたり、やりがいを感じたりする。結果的にそれでお金が入ってくる」という意見に大賛成である。草食系でいい。ただし自分の生に責任を持って全力で生き抜いてほしいのだ。そうすれば結果はきっとついてくると思うのである。
 しかし、40年来の先輩草食男として、今の草食系を見ると、やる気を感じない者ばかりが見えてしまう。自分探しといいながら怠けているだけの若者ではないかと感じたのも確かである。これが小生の感想である。
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             画像はNHKテレビからのキャプチャーです。
by weltgeist | 2010-05-16 22:14


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