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勝ち組に入りたい人たちに一言 (No.631 10/02/01)

 タイガーウッズ選手の浮気事件は驚いた。若くして成功し、押しも押されぬ天才ゴルファーとして誰もが認めていたから、まさかこのようなスキャンダルが吹き出すとは思いもしなかったろう。溢れる才能と模範的な生き方を人から賞賛され、後輩たちは彼を目標とした。おそらくウッズ選手は最高にハッピーな人ではないかと誰もが思っていたのだ。
 彼の失敗で我々は人の行く末についてある種の幻滅を知ってしまった。名誉もお金も得たけれど、それで得たものが今回の結果である。同じ例を少し前にも見ている。先日亡くなったマイケル・ジャクソンだ。彼も成功した人間だったろうが、眠ることも出来ないストレスに悩まされ、結局は麻酔薬を注射して強制的に睡眠を取るほど追い込まれて死んでしまった。優雅な彼の生活ぶりを想像していた我々は、思いもよらないことが当事者には起こっていたのだということを知ったのである。
 ウッズやマイケルのような才能はなくとも、彼らと同じような恵まれた立場まで上り詰めたいと思うのは誰も同じだろう。少なくともあそこまで行かなくとも、人生における勝ち組としてある程度の所まで上り詰めたい。お金も地位も、名誉もすべて勝ち取った人生の「勝ち組」に入れば人生万々歳ではないかと皆思っているのである。
 そう思って人は寸暇を惜しんで働き、高みに向かって猪突猛進する。しかし、それをやっても、実際の成功者となれるのはほんの一部の人である。ときには法律で許されるぎりぎりのところで体を張ったり、沢山の友を裏切ったり、家庭も顧みず、勝ち組の頂点に向かってまっしぐらに走り続けても、努力だけではどうにもならないものがあるのだ。それは「運」である。ウッズにしてもマイケルにしても、努力では勝ち取れない生まれついての才能が備わっていたのだろう。これは凡人がいくら逆立ちをしても手にすることは出来ないものである。
 しかし、運は幸運であると共に、不運というものもある。多くの場合これがセットになっていることに人は気が付かない。マイケルは運に恵まれて、あそこまで上り詰めることが出来た。しかし、それが命取りになったのである。もし、彼がごく普通の青年だったら、あんな死に方はしなかったろう。
 街でわずか2ドルで買った宝くじで28億円もの大金を当てたフロリダのアブラハム・シェークスピアさんという人が、今日のニュースで殺されて死体で見つかったと報じていた。彼がお金を得たことがテレビで放送されると、沢山の人にお金をたかられ、最後は命さえ奪われてしまったのである。幸運が密かに不運をも呼び込んでいることを彼は知らなかったのである。
 ウッズやマイケルほどのスケールはなくとも、我々の回りにも成功者と呼ばれる人が沢山いる。そうした人のすべてが不幸ということはないが、幸福であるとも言えないと思う。なぜなら人間の欲望には限りがないからだ。ただ成功することだけを信じて、無我夢中で頑張って進んでも、決して満足は得られない。「もっと、もっと」と言って走ることを止めない。ここまで頑張ったことで失ったものが沢山あるのに、彼にはそれが見えていないのである。
 彼が得たもの、それは孤独である。誰も登ってこれない高みにたった一人で立つ孤独感に彼は悩むことになることだろう。一見華やかに見えていて、どこか虚しい。それは手に触れた物がすべて金に変わってしまうおとぎ話の主人公と似ている。「お金で買えないものはない」と豪語したITバブルの青年社長がいた。ここで信じられるものはお金だけである。金に取り囲まれ、それを支えに孤独に生きていく人を小生は幸福な人と思いたくはない。
 外から見ると何不自由ない幸せな人に見えながら、頼れるものはお金しかない悲しい現実。それに気が付き愕然とする日がきっといつかくることだろう。仮に、最後まで気が付かないとしても、彼の人生を総括する時点、すなわち、この世からおさらばしていくとき、あれほど頼りにしていたお金さえ何の価値も持ち得ないことを痛感するに違いない。ここでは億万長者も貧乏人も、賢者も愚者もみな同じになって土に帰っていくのである。
勝ち組に入りたい人たちに一言 (No.631 10/02/01)_d0151247_2141330.jpg
昨年、パルナシウスという蝶を採りにキルギスの奥地まで行き、出会った少女。日本から蝶を採りに来たと言ったら、草の中で飛べなくなっていたテンシャンウスバシロチョウを見つけてくれた。赤い斑点が鮮やかなテンシャンウスバシロを手にした彼女のうれしそうな顔を思い出すと、人の幸せなんてどこにも、また誰のもとにもあるのだなと思ってしまう。
by weltgeist | 2010-02-01 23:10


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