最近高速道路を逆走する人がいて、はた迷惑な事故を起こしている。サービスエリアで休憩した後、本線に出るつもりで逆方向に行ってしまい、しかも逆走していることにも気づかないのだろう。実際、高速のサービスエリアから本線に戻るとき、「これでいいのかな」と不安に感じることが自分でもある。若い頃なら状況を正しく判断して間違えることはないだろう。しかし、能力が衰えてくると判断力も薄れるから、注意していないと逆走による事故をも起こしかねないのである。
それで、我々の生活を注意深く見ると、いつもこうした様々な判断を要求されながら生きていることに気づく。卑近な例で言えば、朝目が覚めたとき「起きるか、それともこのままもう少し惰眠をむさぼるか」「朝の食事は食べようか、それともダイエットのため我慢しようか」と言ったことなど、すべて我々の行いは小さな判断をした結果なのである。人間の生活はこうした判断の集積から出来あがっていると言えよう。 しかし、判断においてはその軽重がある。朝飯のような軽い、どうでもいいことから、とても重要な判断まで、限りなくあり、必要に応じて撰ばなければならない。もちろん小生のようにリタイアして第一線から退いた人間には、日常生活に於ける個人的な判断しか要求されないから、それから生まれる結果も軽微なものにすぎない。だが、責任ある人、例えば大会社の社長とか政治家ともなると毎日の判断の重さは訳が違ってくる。ちょっと間違えれば、多数の人々を高速逆走状態にさせることもあり得るからだ。 麻生首相、いや、すでに「元首相」が政権を追われたのは解散を判断する時期を読み間違えたからだ。しきりに解散の可能性について言われていた昨年の10月頃に解散していれば、自民党の当選者は若干減っても、今回ほどの惨敗はなかったろう。だが、そうだからといって今回の惨敗の責任を麻生元首相だけに押しつけるのはお門違いである。麻生さんを首相に選んだのは自民党員自身だから、党員全員の判断力が問われねばならないのだ。 重要な判断をしなければならないとき、よく例に出されるのはシーザーである。「賽は投げられた」という有名な言葉を残して彼は「ルビコン川を渡って」ローマに入る。ガリア(今のフランス)を攻略し終えてローマ領内に戻るとき、軍団を解散せず南に進軍することは禁止されていた。国境のルビコン川を渡れば彼は反逆者となるのだ。しかし、彼はそれを無視して南進する。この時の「決断の強さ」が後世に語り継がれているのである。 しかし、シーザーがルビコン川を渡る決心をしたのは、単なる思いつきではない。十分に先を読み通して、勝てる自信を持っていたからに他ならない。ここに判断力の違いが出てくる。判断力は常に鋭利に研ぎ澄ませておく必要があるのだ。切れのいいナイフと同じで、ここぞと思った時に的確かつ正確にスパッと切っていく能力がなければならない。錆びた包丁を持つ麻生元首相であってはこの時代は対応出来ないのである。 我々が常日頃ほとんど無意識的に行っている様々な「判断」は、しばしば間違いを犯す。それは注意力が散漫であるからだ。自分が重要な決断の場面に直面していることも意識しないで、あれこれ簡単に決めてしまう。当然、それによって起こった結果が自分の望んでいたものと違うことがよくある。ところが頭の悪い人はここで他人に責任を転嫁して文句を言う。自分は悪くない、悪いのはあいつだ、あいつにそそのかされた、と言い張るのである。だが、よく考えてみるとこうしたことは、全て自分が撰んだことの結果である。どのような結果が生じるか甘い予測で判断したことが、悪い結果を生んだのにすぎないのである。判断力というものは自己責任と不可分なのである。 日常生活における軽い判断といえども、全ては自己責任につながっている。「判断」とは多様にある可能性のなかから自分が「これがいい」と撰ぶことを意味する。どんなに他人から「こちらがいい」と勧められようと、最終的に判断するのは自分である。だから、人間が行う行動は、全ては自分が責任を持たねばならないのだ。難しいことだが、人間にはそうした重みが科せられているのである。このことは肝に銘じておかねばならないだろう。
by weltgeist
| 2009-09-17 23:22
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