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ワーファリンと脳梗塞の危険3、懸命に続けたリハビリ (No.467 09/08/10)

 脳梗塞の治療は一分一秒を争う時間との勝負らしい。発作が起こったら出来るだけ早く治療を開始する必要がある。早ければ早いほど血栓を薬で溶かすことが出来、梗塞による機能障害を軽く出来るのだ。勝負の分かれ道は3時間以内であるという。5分遅れると治癒率が5%低下するほどスピードが重要なのだと言われた。
 なぜ3時間以内かというと、それまでなら t-PA と呼ばれる薬が使えるからだ。これは脳に詰まった血栓を溶かす効果が非常に高い薬である。ただし、効果があるのは発作から3時間以内の場合で、遅れると使えない。しかし、そんな効果的な薬だが、内出血を起こしやすい副作用があり、小生のようにワーファリンを服用している場合は、新たな脳内出血を誘発しかねないから使えない治療法であることも分かった。
 病室に運ばれた小生は t-PA ではなく、ラジカットとヘパーリンという薬が点滴で投与された。ヘパーリンは血液の血栓を抑える薬だから心臓手術のときからお馴染みだったが、ラジカットという薬は初めてである。聞けばこれも脳梗塞の特効薬で毎日、朝と夕方2回点滴で投与する予定だと言う。
 その間に看護師が来て、「**さん、私の声が聞こえますか」と、まず脳の反応を見る。この質問にはちょっとムッとした。発作でオツムまでダメージを受ける人がかなりいるらしいから、その反応を調べるのだろう。まだ頭はパーチクリンにはなっていないことを看護師も理解したようだ。続いて、簡単な言葉を話して、言語障害の有無を調べるが、こちらも幸いにして異常なし。次は両手、両足をそれぞれ上げて、どのくらい動くか調べる。すると、やはり左手が動かない。足は問題なく動くが、左手が麻痺したままなのだ。
 普段、何気なく使っていた手が全然使えない感覚というのは、恐らく脳梗塞を経験した人でないと分からないのではないかと思う。もう左手で何かを掴むなんてことは出来ないのだ。こうした麻痺は一生続くのだろうか。もしそうなら、今後釣りに行くことも出来なくなってしまう。どうしてこんなことになってしまったのか、自分の不運と暗い将来を思うと、不安で仕方がなかった。
 だが、翌朝一番、看護師がやって来て「ハイ、**さん、両手を上げてみて」と言われた所で少し変化が起きていることに気づいた。恐る恐る上げてみると、昨日は全然動かなかった手に少し力が入って腕が上がるようになっているではないか。指を拡げて、グーパーグーパーもやると、まだぎこちないが少し動くようになった。昨日のラジカット投与が多少効いてきたのだ。看護師は「なるべく麻痺した手を動かして、元の感覚に戻るようトレーニングをするのがいい」と言い、今朝もラジカットの点滴を投与した。これは多分100mlくらいの量だろう。点滴は30分ほどで終わった。あとは、夕方また同じ量を投与するという。しかし、そんなに効果的な薬なら一日中連続してやってもいいと思うのだが、副作用(後で聞いたら腎臓障害を起こしやすいらしい)があるから無闇やたらにやればいいというものでもないようだ。

 10時頃今度はリハビリを受けさせられた。この病院は脳神経外科専門の病院で、病室の下の階全部が広い体育館みたいなリハビリルームになっていて、その中で沢山の人が歩行訓練や、手の訓練をやっている。まず、その人数の多さに驚くと共に、多くの人が小生よりはるかに深刻な麻痺に襲われ、それを直そうと頑張っていたことだ。世の中にはこんなに沢山の人が脳の障害で悩んでいたことを知り、唖然としたのである。
 トレーナーは朝看護師がやったのと同じようにまず手と足を動かさせ、色々な場所を触っては、「ここの感触はどうですか」と聞いてくる。だが、手のひらを触られても、ほとんどその感触が感じられない。さらに、昨日は気づかなかったが、左足の指が動かず、こちらも少し麻痺の症状が出ていることが分かった。想像以上に麻痺は色々な所で起こっているようなのである。
 リハビリ初日は手足をもみほぐしてから、簡単なゲームをさせられた。テーブルの上に置いた10個ほどのビー玉を左手で掴んで、少し離れた所に移す作業である。いつもなら何の問題もなく簡単に出来ることなのに、ビー玉がうまく掴めない。掴んでもしっかり握っている感覚がなく、途中で手から落ちてしまうのだ。
 だが、それでも自分はある種の手応えを感じていた。というのも、昨日は物を掴むどころか、腕を動かすことさえ出来なかったからだ。それが今日は腕は動くようになった。そして、まだおぼつかないが、ビー玉を握ることが出来るまでに回復してきたからだ。グーパーグーパーも少し出来るようになった。恐らく昨日から続けているラジカットが効いてきたのだろう。麻痺は次第に回復しつつあったのである。ベッドに戻った小生は、何度も何度も左手でグーパーグーパーを繰り返した。すると、それに呼応するように、だんだん指の動きが良くなってきたのだ。希望の光はかすかだが、遠くに見え始めたのである。 
この項、明日に続く。
ワーファリンと脳梗塞の危険3、懸命に続けたリハビリ (No.467 09/08/10)_d0151247_2220524.jpg
こんなふうにサーフィンが出来るのも体が元気だからだ。一旦体の一部が麻痺したら、サーフィンどころか、まともに歩くことさえ出来なくなるのだ。今回の発作で健康であることのありがたさを嫌と言うほど教えられた。
by weltgeist | 2009-08-10 22:22


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