一年で一番いい季節である5月をほぼ病院のベッドの上で過ごさなければならなかったのはとても悔しい。元気でいればきっとあちらこちらで好きなことをしまくっていたことだろう。だが、皆が外で楽しくしている間、自分はずっとベッドの中にいたから、本を読む時間だけはたっぷりあった。購入したのに自宅に「つん読状態」であったものや、新たに書店で購入したものなど、相当数の本を持ち込み、連日読書三昧をしていたのは自分にとっては良かったと思っている。むしろ、今回の入院は今まで多忙すぎてロクに本も読んでいなかった自分への贈り物であったと思えるほど本を読むことができた。
読んだのは小説かエッセーが多かったが、雑誌はほとんど読まなかった。最近の雑誌はとにかく面白くないからだ。丁度入院しているとき、朝日新聞が「休刊時代のメディア考」という企画で永江朗氏がその原因について書いていた。 永江氏は雑誌が売れないのは読者のせい、と編集者は考えているむきがあるが、雑誌をつまらないものにしたのはむしろ編集者と作家のせいだと言っていた。つぶれた雑誌を見ると、書き手の顔ぶれは20年前と変わっていない。十年一日のごとく、惰性で本を作っているとしか思えないと手厳しく指摘している。そうしたことに手を染めた作家と編集者の責任は重大だが、それを売る弱小書店を急速に減らしてしまった責任もあるという。出版社は小さな書店が苦しんでいるのを知りながらそれを放置し、救済しなかった。つまり、売り場をどんどん縮小させてしまったのだ。それともう一つ、若い読者を大事にしなかったことのツケが回ったのだと断罪していた。これは本当にその通りだと思う。 雑誌が売れなくなった原因は、編集者や作家が駄目にしたと共に、読者、すなわち読む方の立場や興味がすっかり変わってしまい、それを満たす企画が雑誌にないということでもある。編集者はこうした読者の変化をうまく掴む能力を失いつつある気がする。まさか、そんな奴は相手にしない、俺たちは高尚な読者だけを相手に本を作っているのだ、などとは思っていないと思うが・・。 ほとんどの記事がすでに報道された手垢の付いたネタに過ぎず、編集者は何とか目新しいものを探そうと必死になっている。ところが、早々にそんなネタがあるわけはない。人の目を向けさせるためだけで内容のない、奇抜な特集で逃げたりする。読者は一見新しい新鮮な物と思って手にするが、すぐにだまされたことに気づき憤慨する。かくしてまたまた優良な読者を失って行く。つまりはじり貧なのだ。 本が売れないのは確かに時代の趨勢であろう。しかし、良書は時代を超越する。それはいつまでも輝きを失わないのだが、今やあまりの出版点数の陰でその光も遮られている。そして、世に出ぬ間に消えて行く。こうした良書が人知れず消えていくのは残念でならない。 これからはネットの重みがますます強まり、出版はさらに追いつめられていくことだろう。だが、現状で見るネットのコンテンツは今なお、軽くて出版が持つ重さにはとうてい到達しえない。まだアドバンテージは出版にある。この段階で打つべき手があると思うのだが、出版界からの働きは鈍い。 今日の朝日新聞によれば小学館、集英社、講談社などの大手出版社が、ブックオフの株を取得し、大株主としてブックオフに影響力を駆使する姿勢を示すと報道していた。本が売れない原因は、ブックオフのような古本屋が、出版されたばかりの新古本を安い値段で販売しているからだ、と出版社は考えているようだ。古本屋の経営権を握ることで新本購入読者数を増やそうとしているのではないかという思惑が見え隠れする。つまり、古本屋にあまり早く新本を売るなと、圧力を掛ける気なのだと受け取れるのだ。出版社はそれを否定するが、これはタコが自分の足を食って飢えをしのぐのに似ている。読者の心を掴めないつまらない本を惰性で出しているから本が売れないのだ。経営が傾いてきている根本原因に本気で向き合わず、小手先の誤魔化しで売り上げを伸ばそうとしても、歴史の流れに勝てないことを知るべきだ。 折しも、グーグルが膨大な書籍を電子化して、ネットでタダで読ませることを着々を進めている。もし、タダで本が読めれば最早誰もお金を払ってまで本を読もうとはしないだろう。しかし、そうなると書き手である作家もいなくなる。出版社が無くなれば、原稿料、印税も望めなくなるからだ。それの行き着く先は、お手軽で深みのない、空疎な世界が待ち受けている気がしてならない。
by weltgeist
| 2009-05-30 23:17
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