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See through rose glasses 、バラ眼鏡とスタンダールの恋愛論 (No.247 08/11/12)

 本日は久しぶりにBさんの英会話個人授業。朝10時からお昼まで約2時間強、英会話の勉強をするが、最近の小生、習っている割には少しも英語が上手にならない。とにかく頭がパーチクリンになっているから、単語も構文も覚えられない。覚えても覚えてもすぐに忘れ、上達出来ないのだ。リタイアして仕事から離れているから、他に頭を使う必要もない。英語に集中できる時間は十分あるはずなのに、これがどうもいけません。小生の方が英会話の勉強をやった時間は比較にならないほど長いのに、わが奥さんが猛追撃してきていささか焦り気味である。
 今日教わったのは、英語で色をどう言い表すかだ。写真ではRGB、すなわち、赤、青、緑色、印刷ならCMYK、シアン、マゼンタ、イエロー、黒の4色を使って色のかなりの部分を表現することが出来るが、言葉となると、日本語と英語は微妙にニュアンスが違ってくるから難しい。典型的な例は信号の「青」だ。英語で信号を青と言ったら「あれは青ではない。グリーンだ」と訂正されるだろう。色を言葉で表すのは難しいのだ。
 ところで、今日は色に関することで標題の 「 See through rose glasses 」と言う言葉を教わった。日本語に直せば、「色眼鏡で物を見る」という意味である。だが、色眼鏡でもここで言う rose バラ色とは、恋愛における若者たちのバラ色眼鏡のことで、悪い意味ではない。恋する相手の良い所だけを見る態度のことである。
 若い頃、スタンダールの「恋愛論」を読んで、「結晶作用」という言葉を知った。スタンダールは、若者が恋をすると、強度のバラ眼鏡によって、相手の良いところばかりが見えてくる「結晶作用」を起こすと書いている。強烈なバラ眼鏡をかけられていることも忘れて、恋の相手を理想化した美しい宝石のような結晶にしてしまうのだ。スタンダールはこの言葉をオーストリアの岩塩鉱山の坑道に入れた木の枝に、しばらくすると塩の結晶が付着してきて、非常にきれいに見えることからヒントを得たと書いている。恋愛感情に燃え上がった人は、結晶作用で恋の相手が、現実とは全然違った理想的な人物として輝いて見えてくるのだ。
 相手の良いところだけが誇張されて見えるのは悪いことではない。人間なら誰もが持つ欠点は無視して、良い所だけ認めてくれるなら、この世は平和でバラ色だろう。問題はそうしたバラ眼鏡が長続きしないことだ。長く付き合っているとどうしても相手の欠点が見えてくる。スタンダールは結晶作用が進行すると第二の結晶作用が発生し、それに悩まされると言う。それは疑惑の混入である。相手は本当に自分を愛しているのだろうかという疑惑に絶えず悩まされながらも、危険な崖の道を空想に浸りながら歩くのが恋愛だと言う。
 何ともロマンチックな話だが、現実のスタンダールはおよそ女性にもてるような風体ではなかったらしい。生涯独身で、「赤と黒」や「パルムの僧院」などの名作を出しながら、ほとんど無名な売れない作家として死んでいったという。かの「恋愛論」も初版は22冊しか売れず、世間から完全に黙殺された作家である。彼自身が結晶作用で夢を追い続けながら、不遇のうちに亡くなっていったのである。
 それはさておき、このバラ眼鏡、実は我々にはぜひ必要なものではないだろうか。この世の中、腹が立つことばかりである。しかし、そうしたことに目をつぶり、相手の良いところを認めてあげる。そうすれば、恋愛に陥った男女と同じように、平和で幸せな世界が実現すると思うのだが。
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奥さんが昨日作ったフラワーリース。ここにある花の微妙な色を言葉で全部言い表すことは不可能であろう。小さな花一つを見ても、その色は自然な深みのあるグラデーションを持っている。そんな物を言葉という枠の中にはめ込むこと自体が無理な気がしてくる。この世の中にかくも美しき物が咲いているという現実。知れば知るほど自然の力は偉大だと思う。
by weltgeist | 2008-11-12 23:15


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