押し寄せる原油高の波に、漁民達が全国一斉に休漁した。テレビは朝から静まりかえった港や活動を停止した魚市場、そして材料の魚がなくなることを恐れる寿司屋や魚屋の様子を放送していた。ついに来るべき物が来たとテレビは言っていたが、これはまだ序の口にすぎない。次に襲ってくるであろう大きな嵐の前哨戦であって、本当の危機は背後で不気味にエネルギーを貯めながら上陸の機会を伺っているのだ。本命が上陸すれば日本は、いや世界はどうなるだろうか。
釣り人である小生のような人間は、魚が無くなったら自分で釣ってくるからいいか、と気楽に考えていたが、魚を釣るにも釣り船に乗らなければならない。船に頼らない川の釣りや、歩いてポイントに入れる地磯からの釣りなど、限られたことしかできないのだ。結局は、焼け石に水で、釣りそのものさえ出来ないひどい世の中になるかもしれない。 評論家がこれからは物価が上がり、以前よりはるかに高い生活費が必要となるが、給料は上がらないので厳しい世の中になると予測していた。働いても働いても楽になれないのだ。こうしたことをもたらした諸悪の根源が投機マネーによる原油高、食料資源高であることは間違いないが、ここで気が付かなければいけないのは、この投機で富の一極集中が加速されていることだ。 もし、あなたの財布から他人が断りもなくお金を抜き取っていけば、黙っていないだろう。今はまさにそうしたことが世界的規模で合法的、かつ公然と行われようとしているのだ。庶民のお金がひどい速さで一部の持てる人の所に流れているのである。お金を持っている人、資源を持っている人、食料を持っている人などにお金が集中していく。持てる人は庶民の金をかき集めていっそう金持ちになり、貧乏人はもっと貧乏になる。自由、平等、博愛の精神などどこ吹く風である。 少し前まで日本は総中流意識を持って安心していた。あまり豊でないが、お隣も似たようだし、「ま、そこそこでいいか」と思っていたのだ。その一方で、ごくごく一部の人は信じられないくらいの財産を持ち、信じられないほど優雅な生活を享受していたのをご存じだろうか。そして、その流れがさらに強くなって今に至っているのだ。 しかし、投機は得をした者がいれば損をした者も出るゼロサムの世界である。悪は必ず滅びると信じる小生は、こうして儲けた連中もいつかは躓き没落すると思っている。上がると思って賭けた原油が思いもしないことで下落すると、巨大な損失で奈落の底にたたき落とされる。これが正義であろう。 ところが、信じられないのはそうした連中を公的資金で救いあげてやろうとしていることだ。米FRBは、サブプライムローンで破綻しつつある米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)に対し緊急融資を実施すると発表した。これらが投機マネーを直接運用するファンドでないにしても、責任の一端はあるはずだ。それを公的資金(まだ推測だが、いずれは国の公的資金も注入すると新聞は書いている)まで注入して助けるらしい。理由は、もしこれらの会社が破綻したら、世界経済に未曾有の悪影響を及ぼすからだと言う。だが、すでに投機マネーによって、世界は未曾有の危機に見舞われようとしているのだ。それをバックアップした者を助けようと言うのである。 連日の物価高に財布のお金の減る速度がどんどん加速していく。悲鳴をあげる庶民の陰で、今も一部の金持ちがほくそ笑んでいると思うと、腹が立つ。しかも、彼らはもし自らが倒れるようなことになっても、政府が助けてくれることを今回の件で確信したのだ。小さな会社は潰せるが、大きすぎるものは潰せないという納得できない論理でだ。 繰り返すが、我々が苦境に陥るのに比例して、ごく少数の金持ちの手にはお金が溜まる一方である。世界は急速に格差を増大させている。一昨日書いたように、日本の旧支配階級、武士は富が彼らの手に集中せず、質素な生活に甘んじる覚悟を持っていた。今、巨大な投機マネーを操る人たちに新渡戸稲造の「武士道」を読ませたい気分である。 人が生きる現実とはこのようなものだろうか。肩にのしかかる重みは耐え難い。しかし、それにも関わらずこの人の顔にはわずかだが、笑顔のようなものを感じる。苦しくともはるか先に見える希望の明かりを目指して必死に生きていく。それが人間の宿命と、この彫刻は訴えているように感じた。パリ・ノートルダム大聖堂にて。
by weltgeist
| 2008-07-15 16:10
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