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久しぶりの都内で思わぬことを体験 (No.2050 15/02/11)

久しぶりの都内で思わぬことを体験 (No.2050 15/02/11)_d0151247_20371191.jpg エジプトのピラミッド近くに半分崩れかかった巨大なスフィンクスの石像がある。頭から胸は人間の女性、体はライオン、背中は鷲の翼を持つとされるギリシャ神話の怪物だ。ダクテュロス・ヘクサメトロスの5行詩によれば、スフィンクスは通りかかった者に次のような謎をかけたという
一つの声をもち、二つ足にしてまた四つ足にしてまた三つ足なるものが地上にいる。
地を這い、空を飛び海を泳ぐものどものうち、これほど姿、背丈を変えるものはない。
それがもっとも多く(3本)の足に支えられて歩くとき、肢体の力はもっとも弱く、その速さはもっとも遅いものは何ーんだ?
 」と。そしてこの謎を解けなかった者は殺してしまう困った怪物だった。
 この謎を解いたのは、No.2045で書いたオイディプス王である。一つの声をもち、二つ足にも四つ足にも三つ足にもなって、姿を変えるものとは人間のことだ、とオイディプスは答えた。赤ん坊のときは4本の手足でハイハイ、大人になると2本足で立ち、体力もなく歩くのが遅い老人は杖を必要とするので3本足となるからだ。

 
 オイディプスが言うように確かに人間は生まれてきたときは四つ足だが、大人になると二本足となり、最後は杖をついて三本になる。しかし、老人になっても杖に頼らない人もいるはずだ。杖をつくから三本足というスフィンクスの謎かけに若い頃の私は、「これは正確さを欠いた謎だ」と思っていた。
 だが、化膿性脊柱炎というとんでもなくやっかいな病気にかかってオイディプスのいうことの正しさがが分かってきた。私自身が病気になって杖がなければうまく歩けない人間となったからだ。
 最初は体をまったく動かせない状態だったが、退院してリハビリに励んだ結果、今は少しずつ歩けるようになった。しかし、まだ杖は必携な品で、それなしにはうまく歩ける段階までなっていない。
 それでもできるだけ体を動かして、体力をつけろという主治医の言葉に従って、近所で杖をついて歩く練習をしている。そして、先日、自分の快復具合を試す意味も込めて思いきって都内まで一人で外出してみた。前よりかなり歩けるようにはなったが、それでも自分にとっては初めての「遠征大旅行」。大丈夫だろうか。もよりの駅までは妻に車で送ってもらって、あとは全部一人でやらなければならない。最初の難関は駅の階段だが、最近はエスカレーターがあってこれは問題なくクリアできた。次は電車。
 ホームに入ってきた電車はかなり混んでいる。ドアが開き降りる人がドッと出てきたとき一瞬押し倒されそうになったが、なんとかセーフ。これも三本足の杖があったからだ。そして後ろから押されるように車内に入る。結構混んでいるからもちろん座ることはできない。ところが、目の前に座っていた人が私の杖を見て「どうぞ」と言って席を譲ってくれたのだ。立っているのが辛かったので、この親切がとてもありがたかった。
 私はこの日、都内の地下鉄も含めて4回も席を譲ってもらった。4回というのは私が乗ったすべての電車でである。譲ってくれた人はみんな私の杖を見て「この人は弱い人だから助けなければ」と思ったのだろう。杖の効用は素晴らしかった。そして日本人は杖に見事なまでの公徳心を発揮してくれたのだった。杖に頼り、席を譲ってもらう身にまで成り下がった自分が情けなかったが、日本人の心の温かさにふれることができた。日本はまだまだ捨てたものではない。素晴らしい国だ。 

*写真・Gustave Moreau / Oedipus and the Sphinx / 1864 / Metropolitan Museum of Art, New York. オイディプスに謎かけをしてくるスフィンクスをギュスターヴ・モローはこんな風に描いている。実はスフィンクスはテーバイ王だったラーイオスの娘がなったもので、二人は兄弟だったという。スフィンクスの神話で2500年前のオイディプスの時代から老人は杖を使っていたことが私にも分かった。
by Weltgeist | 2015-02-11 23:16


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