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トマ・ピケティと格差解消 (No.2044 15/01/27)

 今発売中の東洋経済「ピケティ完全理解」(2015年1/31号)を読んだ。世界的なベストセラーになっている彼の「21世紀の資本」は700ページにも及ぶ経済専門書である。経済に疎い私がそんな専門書まで読む時間はない。手っ取り早い解説書として東洋経済を読んだのだが、分かったことは「株や不動産、債券などの投資による資本収益率は経済成長率を常に上回る」から、資本主義では必然的に格差が拡大していくということだった。
 トマ・ピケティはそれを r > g という公式で説明する。r とは資本収益率、g は成長率である。たとえば現状に照らしてみると、収益率5%、成長率1%。これだと労働者がいくら働いても資産のある投資家の方が5倍も儲かる。額に汗するより、株や債券など資産を転がす方が儲かる富の不平等、その格差が拡大しているのだ。
 ピケティは豊富なデータからそれが今の資本主義の特性であることを説明していく。たとえば2010年度米国での所得配分を見ると分かる。最上位にいる人は国民の0.01%にすぎないが、その平均年収は8億5021万円、上位1%になっても4385万円、5%だと1850万円である。ところがこれから下になると信じられないほど低額になる。そして、上位1%の人(3億875万人分の1、すなわち3百万8750人)は所得が増え続けているのに残りの90%(2億7787万人)以上の人はこの20年間まったく所得が増えていない。現実に格差はここまで進んでいるのだ。
 しかし、このように資本主義は一部の人に富を集中させるという理論は決して目新しいものではない。マルクスは資本主義は格差の拡大に怒った労働者の革命によって共産主義になると予言した。だからいまさらピケティが格差は拡大すると言われても、フーンというしかない。問題は、それではどうしたらこの格差を解消するかだ。マルクスは暴力による革命を唱えたが、ピケティは富を集中させる特権階級に税金を課して、所得を平(均)準化せよという。しかし、世界が複雑に交わっている現代では、タックスヘイブンの島に逃げるなど、課税作戦は抜け穴が多い。そのためにも国際的なネットワークを敷いて、国際累進課税を断行せよというのが彼の解決策なのだそうだ。
 ここまで読んで、少々あほくさくなってきた。もちろん原著を読んでいないから早計な判断は控えるべきかもしれないが、人間に対する甘い幻想に基づく理論だと思った。いくら国際的なネットワークを築いても、金持ちはどんな手段を用いてでもその抜け道を見つけ出す。そのことは長い歴史が証明している。あなたは自分のサイフから他人がお金を引き出そうとしたらどうする。人間は自分のお金が勝手に減らされたら極めて強固に反抗するものである。それを決して容認はしないのだ。
 アダム・スミスは富が上層の人にもたらされれば、それは下層の人に落ちていくと信じた。だから資本家の私利私欲追求を奨励したのである。資本家が潤えばおこぼれが下にも落ちて皆が豊かになるというトリクルダウンの思想は、まさに今のアベノミクスと同じである。安倍首相は儲かった企業は労働者の賃金をあげて欲しいと経営者に「お願い」している。そうなれば下で働く90%の人々におこぼれを分け与えて景気がよくなるからだという。
 しかし、ふところが暖かくなった経営者が、首相のお願いを聞いて「それでは給料を上げましょう」と思うのは単純すぎる。労働者の賃金とはマルクスが指摘したように「生かさず、殺さず」で決められるのだ。ここで言う殺さずとは、給料を上げなければ優秀な人材が集まらないからで、仕方なく上げているにすぎない。金持ちが自分の取り分を貧しい人に配る優しさを持ち合わせているのか。むしろどうしたら他人に渡る富を横取りできるかしか考えない人ばかりではないか。お願いだけで給料が上がるとは思えない。
 仮に一部の大企業で従業員の所得が増えたとしても、その多くは貯蓄に回る。なぜなら、大多数の労働者が明日はどうなるかも知れぬ不安定なところに置かれているからだ。史上最低の低金利であっても将来の不安に備えて貯蓄に回す。消費はのびず、景気は浮上しない。格差はこれからも拡大していくと私は思っている。
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by Weltgeist | 2015-01-27 23:55


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