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魑魅魍魎の原稿料 (No.1691 13/05/05)

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 むかしあるテレビ局から北海道のロケをたのまれたことがある。まだテレビ局の力が絶大で、取材費も潤沢にあった良き時代のことである。飛行機は朝の早い便だったので、一番電車に乗らないと羽田に間に合わない。しかし、早朝でバスもないので駅までタクシーを使うつもりでいたら、テレビ局が小生宅から羽田までのタクシーチケットを出してくれた。田舎にある拙宅から羽田までどのくらいだったか覚えていないが、もちろん万は軽く超える金額だった。
 噂では***局のギャラは信じられないほど安いと聞いていたので、タクシーチケットに少し驚いた。しかし、取材前のディレクターと打ち合わせでギャラの話は一切出なかった。仕事は依頼されたが、いくらもらえるのか小生にはまったく分からない。この世界ではギャラ交渉はしないのが当たり前という不思議な業界だから、小生も聞きもしなかったのである。
 幸い、このときは自分でも驚くほど高額のギャラを後でもらった。あまりに高いので「こんなにもらっていいのですか」と思わず声が出てしまったが、担当ディレクターが当テレビ局では有名人、一般人と区別せず一律に決まった「***社規定」のギャラを払うと言われて、「俺も芸能人並になったのか」と妙に関心したことがある。
 しかし、幸運な時ばかりとは限らない。ひどく苦労した仕事をしたのに、もらったギャラの少なさに失望したことも何度もある。これも最初にギャラの提示がなかったからで、聞いていれば安すぎる仕事は受けなかったろう。一番ひどかったのは、オーストラリアにある漫画家とロケに行ったとき、後に一銭のギャラももらえない事態になった。大手出版社がフリーのコーディネーターに仕事を丸投げしたら、彼が最後にドロンしてしまったのだ。
 世間一般では仕事を頼む時、前もって料金交渉をして契約書を交わすのが当たり前だが、この業界ではそういことはしない。単行本は印税何%と決めるが、小生など者の数に入れられていないのか、黙って振り込まれる原稿料を文句も言えずに受け取るだけである。昔の寿司屋は板前に適当に握ってもらっても払う段にいくらになるのか分からない。それと同じことが堂々とまかり通る特殊な世界だったのである。だから同業のライターやカメラマンがどのくらいの原稿料をもらっているのかも、我々にはまったく分からない。つべこべ言わずに黙って仕事をせい、という体質である。
 不思議なのは、週刊誌のコラムを書いていた時代、景気の良かった出版社は小生のような駆け出しにまで自宅までのタクシー券を出してくれたことだ。都心から田舎にある拙宅までタクシーだと15000円前後だったが、小さなコラムの原稿料はせいぜい数万円。2~3回タクシーに乗ると、原稿料より交通費の方が高くなってしまう。タクシー代分を原稿料に上乗せしてくれた方がずっといいのだが、そうしたことはしない。
 小生が関係していた出版社の編集部は、社員が出社してくるのが午後5時頃、午前2時、3時頃退社するというのが普通の部署だったから、編集部員たちも深夜タクシーで毎晩帰宅していた。こんな異常な世界だったが当時の雑誌(とくに漫画誌)は数百万部も売れていたからそれもまかり通ったのだろう。そして、その責め苦が今の出版不況となっているのである。
by Weltgeist | 2013-05-05 23:50


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