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インド・パルナシウスの旅、15、カーギル、ゾジラ、ペンジラ (No.1448 12/08/13)

 わが家には怖い批評家が一人いる。小生がこのブログを始めて以来最初からの読者であるとともに、結婚以来ずっとわが家に同居しているちょっとおっかない女性である。彼女は毎日、小生のブログを見て、出来の悪いときは手厳しい批評をする。その批評家が今回のインド旅行記について「もう同じような内容のものを書くのは止めたら。蝶のことなど面白くない」という評価をなさった。
 言われてみれば今回のインド旅行記、自分自身が書いていても何か面白くないところがあった。毎日事実の報告だけで、何か仕事上のレポートを書いているような気がしていたのである。そもそも、今回はタイトルからしてイマイチだ。「インド・パルナシウスの旅」なんて題名だと蝶、それもパルナシウスに興味がある人以外は面白くもなんともないものだろう。
 そこで、今日と明日を最後に、もうこの旅行記を書くのは止めることにした。昨日までのやり方を続けていれば、7月14日から21日までの分を延々と続けなければならない。面白くもない事務的な報告を続ける愚は止めて、14日以降の後半は今日と明日の二回で完結することにしたのである。
 総括一日目は、15日から19日まで4泊5日で行ったカーギル、ゾジラ峠、ペンジラ峠編である。ここで小生はステノゼムスウスバシロチョウとカルトニウスウスバシロチョウの二種類のパルナシウスをとったのだが、この件は端折ることにした。これ以上蝶に関することは無しである。インドの蝶に興味のある人は、前に書いたタガラン峠やラチュン峠と似たような所に似たような習性でパルナシウスはいました、という報告だけでご勘弁願いたい。
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 さて、インドという国は実に懐の深い国で、興味はつきないが、チベット仏教文化の色濃いレーから西に向かうと次第にイスラム色が濃くなり、カーギル(上の写真)に入ると全然文化が違ったイスラム世界の様相を呈してくる。また、極度に乾燥していたレーとは違って、モンスーンの影響を受けた地域で、山の斜面が次第に緑色になり、風景が明るくなることも気持ちに変化を与える。しかし、カーギルはパキスタン実効支配地域と数㎞しか離れていないため、ときどきパキスタン側から砲弾が撃ち込まれることがある。我々がこれからカーギルを経てゾジラまで行くと言ったら、「あそこは危険地帯だから注意しな」と、レーの人から言われた微妙な場所でもあるようだ。
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 カーギルからさらに西に行くと、今回の目的地、ゾジラ峠に到着。峠の向こう側は雨の多いモンスーン地帯のカシミール。山の斜面はレー付近の砂漠とは全然違って、緑に覆われている。
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 ゾジラ付近は緊張感のあるミリタリーゾーンだから注意が必要だ。旅行社は「あなたたちが行くのはいいが、どうか自己責任の範囲で慎重に行動してくれ」と言われた。なるほど峠をへてスリナガルに至る国道の各所に銃を持った兵士が警戒している。ここは平和な日本とはまったく違った緊張地帯なのだ。
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 沢山の羊の群れを追ってゾジラ峠の奥に登っていく。この風景がまるでスイスの牧場を歩くような感じである。こんなに気持ちのいい谷の奥で、このあと我々がとんでもない事態に遭うとはまだ夢にも思ってもいなかった。
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 歩き始めて30分、突然左手の斜面から武装した5~6人の兵士が降りて来て、「ここはお前たちの来るような場所ではない、戻れ」と命令される。どうやら山の斜面にインド軍の前線拠点があって、上から我々を見ていたようである。だが、まだ事態の緊急性を飲み込めなかった小生は「グッド・モーニング」と、お目出度いことを言いながら手にしていたコンデジで兵士を撮影したのである。すると、一番上にいる(矢印)指揮官らしい男が、「その写真を撮った怪しい男の荷物を調べろ」と小生を指さして英語でわめきだしたのだ。ゲッ、俺の荷物を調べるだと、これはえらいことになった。小生は「逮捕→刑務所」という恐怖の連想に急にビビリだしたのである。
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 その時の写真がこれ。自動小銃を構えた兵士は小生のザックを開けて中身を調べ出した。中には捕虫網が入っているので、何か言われるかと恐れたが、兵士は指揮官に見えないところで、調べるふりだけして我々を解放してくれた。怖そうな顔をしていたが、根は優しい心の持ち主なのかもしれない。
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 鉄砲に追い立てられた我々は、ゾジラ峠からカーギルに一旦戻って、ペンジラ峠に転進した。この峠は途方も無く遠く、9時間以上ダートの悪路を走らないと行き着けないところだが、行ってみれば苦労しただけの甲斐はある素晴らしい場所だった。ご覧のような山が連なるたいへん美しい場所である。しかし、良いことばかりではなかった。ここに来て小生がレーで両替した2万円分のルピーで宿代を払おうとしたら全て偽札であることが判明して、途方に暮れてしまったのだ。お金に関するトラブルが絶えないインドでも特筆すべき事件であったが、この話は別な機会に書くつもりである。
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 もう蝶の話題は扱わないと言ったが、鉄砲と偽札で痛めつけられたあとでも小生はしぶとく蝶を追いかけることだけは止めなかった。その成果、ステノゼムスウスバシロチョウについてだけは最後に書かせていただきたい。ステノゼムスはインドのこの地方だけに生息するパルナシウスで、これの生きた姿に出会えた日本人はほんとうにわずかのはずである。ステノゼムスに出会えただけでもインドに来た意味があった。これは小生にとってはかけがえのない思い出の蝶となったのである。
by Weltgeist | 2012-08-13 22:09


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