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メルキオール・ブルーデルラム、シャンモル修道院祭壇画、その2、左パネル (No.1102 11/06/24)

 昨日に続いてフランス、ブルゴーニュー地方の古都、ディジョン市立美術館で巡り会ったメルキオール・ブルーデルラムの「シャンモル修道院祭壇画」の話である。(小生の性格からして、きっと話がしつこくなると思うので、こういった話題に興味のない方は申し訳ないですが、このスレッドが終わるまでスルーしてください。)
 さて、謎多き画家・ブルーデルラムの唯一残存する「シャンモル修道院祭壇画」は変則的な形をした左右二枚のパネルからなり、新約聖書におけるイエス・キリスト誕生の由来を4つのシーンで時系列的に描いたものである。今日はそのうちの左パネルの二つのシーンをとりあげたい。最初が「受胎告知」、右が「聖母マリアのエリザベツへの訪問」である。
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 パネルの全体的な形は前日の No.1101 を参照していただくとして、まずパネルの大きさだが、167 x 125 cm の板にテンペラで描かれている。祭壇画は教会の信者が遠くから見ても分かるように大きめに描くのが一般的だが、この祭壇画は想像していたより小さい。
 全体の構成は左の「受胎告知」が室内、右の「聖母マリアのエリザベツへの訪問」は屋外でしかも険しい山岳地帯の風景を描いている。
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 左パネルのイエス誕生の物語のスタートは、処女・マリアの処女懐胎 (Virgin birth of Jesus ) の告知である。大天使ガブリエルがマリアのもとにやってきて彼女が神の子を宿ったことを告げる有名なシーンで、これまで非常に多くの画家がこの受胎告知の場面を描いている。聖書ではこの場面は次のような言葉で語られている。
「御使いガブリエルが、神から遣わされてガリラヤのナザレという町の一人の処女のところに来た。この処女はダビデの家系のヨセフという人のいいなずけで、名をマリアといった。御使いは入って来ると、マリアに言った。”おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにおられます。”しかし、マリアはこの言葉にひどくとまどって、これはいったい何のあいさつかと考え込んだ。すると御使いが言った。”こわがることはない。マリア。あなたは神からの恵みをうけたのです。ご覧なさい。あなたはみごもって男の子を産みます。名をイエスとつけなさい。”」(ルカ福音書1:26-31)と書いている。 
 ガブリエルが伝える神のお告げは、彼の持つテープにラテン語で書かれている。いわば現代の漫画に使われる吹き出しの手法をここで使って、神の言葉をより明瞭に人々に伝えようとしているのである。建物は室内のような屋外のようなしゃれた東屋風の作りで、すでにこの時代から遠近法を用いて描かれている。二人の間には白い百合の花が置かれている。これはマドンナリリーと言ってマリアが純潔な処女であることを象徴するものである。他の画家の作品でもガブリエルはしばしば白い百合を持って登場している。
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 神の意志を伝えるために遣わされる御使い(天使)の中で、もっとも重要な場面で登場するのが大天使( Archangel=アークエンジェル ) だ。大天使の中でも一番人気が高く大活躍するのがガブリエル。今回の受胎告知のようにうれしい知らせを告げる時にしばしば出てくる。例えば、旧約聖書でダニエルが夢を見たときも「(ガブリエルが)素早く飛んできて私に告げて言った。”ダニエルよ。私は今、あなたに悟りを告げるために出て来た。あなたが願いの祈りを始めたとき、一つのみことばが述べられたので、私はそれを告げに来た。あなたは神に愛されている人だからだ。」(ダニエル書10:22-23)と書いている。これ以外の大天使としては裁きと戦いの守護神ミカエルやトビト記に出てくるラファエル、エノク書に出て来るウリエルなどの大天使がいる。
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 突然お前は神の子を宿ったと言われて戸惑うマリア。(マリアの顔がボツボツしているのは後世の修復の失敗によるのではないかと思われる)前日の全体写真を見れば分かるように、マリアの左上の空には父なる神・主がいて、口から吹き出した聖霊がマリアに金色の雨となって降り注がれている。金色の雨を注意して見ると、聖霊の象徴である鳩が今にもマリアの中に入ろうとしているのが見てとれる。マリアがまとう衣はこの時代は伝統的に青とされている。また、また、マリアが読んでいる本は旧約聖書のイザヤ書の部分と思われる。そこには「見よ。処女がみごもっている。そして男の子を産み、その名を『インマヌエル』と名づける。」(イザヤ書7:14)と書いてある。つまり、旧約聖書の預言がここで成就したということである。
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 こちらは左パネルの右側部分にある「聖母マリアのエリザベツへの訪問」である。前記ルカ福音書によればマリアの親類であるザカリアの妻エリザベツは子宝に恵まれない不妊の老婆だった。ところがマリアが受胎する6ヶ月前に、ザカリア、エリザベツ夫妻の前に同じようにガブリエルが現れ、「こわがることはない。ザカリア。あなたの妻エリザベツは男の子を産みます。名前をヨハネとつけなさい」(ルカ福音書1:13)と告げられる。後にイエスに洗礼を施す洗礼者ヨハネの母もこのように神の力によって子を得るのである。そして、妊娠の不安を抱えたマリアがエリザベツを訪ね、彼女と三ヶ月一緒に暮らしたと聖書には書いてある。このときマリアは自分が神から祝福され、自らの胎内に神の御子が宿っていて、やがて救世主を産むことを確信する。エリザベツは「あなたは女のなかの祝福された方。(と言い)、・・・マリアは(答えて)言った。わがたましいは主をあがめる。わが霊は、わが救い主なる神の喜びをたたえます。主はこの卑しいはしために目をとめてくださったからです。」(ルカ福音書1:42-46)と言って自らが卑しい人間の分際でありながら神の御子を産むことの喜びを語っている。ここでイエスの誕生の前半の場面は終わるのである。

明日は続けて右パネルについて書きます。
by weltgeist | 2011-06-24 20:20


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