今日から一週間、イースター(今年は来週の日曜日、4月24日)にかけてはいわゆる受難の週と呼ばれる。ユダの裏切りによって十字架に架けられた聖金曜日に向けて、イエス・キリストがエルサレムに入城した日が1980年(AD30数年頃)ほど昔の今日である。エルサレムの人たちはイエスが歩く道にシュロの葉を敷き詰めて歓迎したことからこの日を棕櫚(しゅろ)の日曜日、Palm Sunday という。
シュロを敷き詰めた道をロバの背中に乗ってエルサレムに向かっていくイエスに民衆たちが「ダビデの子にホザナ(hosanna)。祝福あれ。主の御名によって来られる方にホザナ。いと高き所に。」(マタイ福音書21:9 ) と一斉に言って歓迎したとある。 このホザナという言葉は「主に祝福あれ、栄光あれ」という意味であるという。もしそうならこれはまさに凱旋将軍を歓迎するようなものだろう。大西洋を無着陸横断飛行でパリまで飛んだリンドバーグや、第二次大戦でノルマンディー上陸作戦を成功させたアイゼンハウアー将軍の帰還を祝って、ニューヨーク五番街を紙吹雪で一杯にしたのと同じ光景が、今から1980年ほど前にあったことになる。 しかし、イエスが神だとすれば自分がこれから起こりうる出来事、すなわち十字架に架けられて処刑されることはあらかじめ分かっているはずだから、ここで「祝福」ということは人間的常識では分かりにくい。自分が死ぬのが分かっていて、それを祝う人などいないだろう。 だが、イエスは「自らを生け贄」として命を差し出すことで、人類の一切の罪をあがなおうとしているのである。「一人の違反(アダムが罪を犯した原罪)によってすべての人が罪に定められたのと同様に、ひとりの義の行為(イエスの犠牲・死)によってすべての人が義と認められ、命を与えられる」(ローマ書 5:18 )とある 。つまり、アダムが犯した原罪を許してもらうために自分が死んでつぐなう覚悟でエルサレムに入城するのである。これは原罪を背負わされた人間にとっては救いであり、朗報である。ホザナとはこうした期待への賛美なのだ。 ところが、この時点においても人はまだ迷える子羊のままである。イエスは12人の弟子(使徒)を前に「あなたがたは、今夜、わたしのゆえにつまづきます。私が羊飼いを打つ。すると羊の群れは散り散りになる」(マタイ福音書 26:31 ) と、謎のような言葉を言う。 せっかく人間を救ってあげようと思っているのに、肝心の弟子たちでさえ、イエスが官権に捕まるや、裏切りをするだろうと予言するのである。最も信頼されていた弟子のペテロは「ニワトリが三度鳴く前にあなたは三度私は知らないと言う」( 26:34 ) はずだとイエスに言われる。ペテロはそんなことは絶対しないと否定するのだが、いざイエスが捕らえられると弟子たちはイエスを置き去りにして逃げ出してしまう。そしてペテロはお前も仲間だろうと尋問されると「自分は知らない」ととぼけるのである。するとイエスの予言通りニワトリが三度鳴くのを聞き、ペテロは自分の罪深さに絶望し、涙する。 イエス・キリストの一番弟子とされるペテロでさえこのざまである。人間とは何と未完成で弱点だらけなものだろうか。ペテロはその後深く反省して、最後は神の代理人であるローマ教皇にまでなった。人はこのように弱い。しかし、そのことを自分自身が自覚し反省すれば、少しは神の領域に近づくことができるのである。 ルーカス・クラナッハ画 十字架の前で祈るアルブレヒト・フォン・ブランデンブルグ。 クラナッハは宗教改革をやったルターの親友で、世に残っているルターの肖像画のほとんどはクラナッハが描いているが、この絵を見ているとたいへん興味深いことが分かる。ここに描かれているブランデンブルグという男は、マグデブルグの大司教で、自分の出世のワイロ資金を得るために、人の罪を軽くするという「免罪符」を売りまくって民衆から金を巻き上げていた男である。ルターはこの男に怒って宗教改革を始めた、いわば宿敵であった。ところがクラナッハはルターが知ったら激怒しそうなブランデンブルグの絵を何枚も描いているのである。 Albrecht von Brandenburg am Kreuz betend - von Lucas Cranach d.Ä. / um 1520-25 / Alte Pinakothek, München.
by weltgeist
| 2011-04-17 23:55
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