これからのブログを続けるに当たって、前の日に論議が不十分だったテーマは翌日もっと詳しく掘り下げてみるやり方をしてみようと思っている。昨日は人が幸せ感を味わいたければ、自分の欲望を捨てることであると書いたので、今日は、自分の欲望を捨てることが本当に幸せに通じるのかというテーマで話を続けてみた。
さて、古代ギリシャにはエピクロス派とストア派という極端に主張が異なる二つの哲学があった。エピクロス派は快楽の追求こそ幸せへの道と説いたのに対して、ストア派は快楽の追求は動物的な生活と同じで、結局人を堕落させるからと禁欲を説いた。買い物肯定主義で、物はどんどん買いまくって幸せになろう、という明るいエピクロス=快楽派、対するストア派は、快楽を追求することが返って人間を苦しめると、まったく反対のことを主張するやや暗い考え方である。 小生はどちらをとるかと言うとストア派に近い。人間の欲望にはきりがなく、いつか行き詰まると思っているのだ。宝くじで一億円当たったら夢のように幸せな生活ができると思うのは間違いである。たとえ億万長者であっても欲求不満は変わらないだろう。一億あれば二億の物が欲しくなるのだ。だから適当なところで満足してそれ以上欲望の奴隷にならないように注意しようというのが小生の考え方である。 しかし、適当なところで我慢せよといってもどこにリミットを置くのか。ただ我慢しろというだけの禁欲主義は続けられないだろう。欲望というマグマに蓋をすることは困難だからだ。その解決策のヒントとしてアッシジの聖フランチェスカが、自分を捨てて貧しい人のために生きたことだと昨日書いた。自分のためではなく、他の人のために生きること、そのために自らを捨てる道を彼は選んだのである。 フランチェスカの生き方は快楽派と禁欲派の中間といっていいかもしれない。彼は自分を捨てること、つまり自分の欲望を他人のために使うことで、そこに「快」を見いだしたのである。それは高度な自己抑制意識がないとできないことである。自分というものをしっかり見つめ、コントロールできているから捨てることができるのだ。ものすごい自己抑制の産物といえよう。 だが、自分を否定することは、自分を無価値とすることではない。他の人が幸せを実感していることに自らの喜び、幸せを感じることである。他人の喜びは伝染する。うれしそうな笑顔を見れば誰もがうれしい気持ちになる。フランチェスカは他人の喜びを見ることに奉仕する幸せを見いだしたのだ。 わき起こる欲望を際限なく消化するところに理性はない。それはまさに動物と変わらない生活であろう。しかし、動物は自分が必要としているところまでは消費しても、過剰なものまでとろうとはしない。彼らは己がどこまでの量が必要か本能的に知っていて、その枠を乗り越えないのだ。越えるのは人間だけである。それも動物的な態度でガツガツと過剰に喰らい続けるのである。 なぜ人はここまで過剰な欲求充足を求めるのか。人が消費に熱中するのは、結局自分が精神的に満たされないから、他に求めようとしているのである。幸福の青い鳥は足もとにいるにもかかわらず、自分の外に青い鳥を探し回っているにすぎないのだ。 現代人には絶えざる不安がつきまとわりついている。パソコンがなければ置いていかれる。携帯がないと仲間はずれにされる、といった不安があるから必要もないものまで買い込むのである。買い物をしていないと不安にさらされてしまうのだ。気がつけば沢山の物に取り囲まれていながらも、それでも不安は解消していない。欲望充足は現代の闇の深さを不気味に示している。そして人はその暗黒に蝕まれていることに気がついていないのである。
by weltgeist
| 2010-11-16 23:25
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