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日本が誇る秋の果物・柿のルーツ (No.885 10/11/11)

 子供の頃の小生は行儀が悪く、食べた柿の種を庭に吐き出したことがある。その種が芽を出して大学生になる頃には大きな柿の木になった。「桃栗3年柿8年」といわれるように、8年目だったかどうかは覚えていないが、ある年その木が急に沢山の柿の実をつけた。それは甘くておいしそうに見えたが、なぜか渋柿でがっかりした思い出がある。吐き出した種は甘柿だった。当然その子孫も甘柿であろうという思いは裏切られたのである。柿は外見だけでは甘いか渋いかは分からない。しかも甘柿とはっきりした種から育ったものでも渋柿になるというのは意外だった。
 なぜ甘い柿の種は甘柿にならず渋柿が育つのか。先祖が渋柿だったから先祖返りをするのだろうか。この謎はずっと後になって生物学で「種」の定義を学んだときなんとなく分かってきた。生物学的に種(たねではなく、しゅ)とは、生殖隔離といって、種類の違う生物は遺伝的に交われないものとされている。だからたとえ人工的な交雑で一代目の雑種ができても二代目はできない。遺伝的に不安定な状態を自然は許してくれないのである。ところが甘柿はこの遺伝的に不安定な状態のものだからそのままだと元に戻ってしまうらしいのだ。
 実は柿の本来的な形は渋柿で、甘柿は突然変異なのである。13世紀に突然変異の甘い柿が現在の神奈川県で発見され、その発見場所(原木は今でも川崎市麻生区の王禅寺に残っている)から「禅寺丸」という名前として登場してきたのが世界初の甘柿であるという。そして、日本で発生した甘柿が次第に品種改良されて現在は1000種を越えるまでに広がったのだが、実はそうした「雑種」は遺伝的には不安定な状態にある。それを安定させるのが接ぎ木である。接ぎ木は種の違う木を人工的に接続させることで、一種の雑種を作るのだ。単に甘柿の種をまけばいいというものではない。接ぎ木という操作で甘柿が安定して生まれてくるのだという。
 だから柿はかなり昔に中国から日本に伝わってきた「外来種」だが、甘柿は日本がルーツで世界中に広がっていった日本最古の農産物輸出品と言えよう。以前、アムステルダムでヨーロッパにある柿の木はシーボルトが日本から持ち帰ったものだということを教えてもらった。以来、ヨーロッパでも柿は盛んに食べられているが、その名前は Kaki である。日本語がそのままカキという名で伝わったのである。
 アメリカにはゴルフクラブの材料となるパーシモン ( Persimmon ) という柿があるが、これは日本の柿とは違って、実の小さいアメリカガキと言う種で、今のように食べられる柿は1870年に日本から伝わったものだという。ただし、小生の英語の先生、Bさんに聞いたら、彼がいたオレゴン州では柿を見たことがなく、日本に来て初めて食べた果物だと言っていた。Bさんの話では南部の人は食べるようだがオレゴンでは一般的な食べ物ではないらしい。
 アメリカでの生活が長かった友人のマダム・パスカルさんがサンディエゴに住んでいたとき、お隣の庭に柿が実っているのに食べないから、お願いしてもらって食べたと彼女のブログで書いている。食べ方は砂糖、ミルク、バターなどを入れてオーブンで焼く柿プディング(Persimmon pudding) という方法で、生で食べる日本とはずいぶん違うようだ。
 柿は甘柿を生で食べてもいいし、渋柿は干し柿にすれば甘くておいしい。そのうえ柿にはビタミン類やミネラルを大量に含んでいるので昔から柿を食べれば医者要らずの健康食品と言われている。とくにビタミンKを沢山含んでいるので、血管増強、止血作用があると言われている。でも抗血液凝固剤・ワーファリンを飲んでいる小生には、ビタミンKはタブーである。沢山食べると血栓ができやすくなるからおいしくてもあまり沢山は食べられない。しかし、そんな薬を飲んでない人は、この季節、気にすることなく柿をせっせと食べた方が健康のためにもいいだろう。
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近所の知り合いからこの柿をもらった。写真のように不揃いで商品としては販売できそうもないものだが、見てくれと違って柿独特の甘すぎず、それでいて深みのある味がしてとてもおいしかった。柿は外見では味の分からない食べ物である。いかにもおいしそうな渋柿が沢山ある一方で、こんな不細工でも甘くておいしいものまである。それって人間に似ているかもしれない。ものすごい美人が付き合ってみると高慢ちきな女であったり、しょぼくれた老人がすごい人だったりする。そんな奥の深い果物が柿である。
by weltgeist | 2010-11-11 23:48


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