人間はどのくらいの暑さまで耐えられるものだろうか。先日北京に行ったら我々が到着する少し前まで42℃くらいの暑さが続いていたという。日本が暑いなんていうが、まだ35~39℃台。北京の暑さに比べたらたいしたことはないのだ。
さらに北京の42℃なんてものも問題にならないくらい暑いところは世界中を探せばまだ沢山あるだろう。小生が経験した一番暑い気温は82年の夏にラスベガスで遭遇した50℃弱である。あの時の印象は「真夏にたき火の火に当たって暖をとっている」感じで、とても人間の住めるような気温ではなかった。しかも、湿度がほとんど無い極度の乾燥状態だったので、唇にリップクリームを塗らないとすぐに皮がむけてくる。金属に触れば真夏だというのに静電気がバチバチと火花を飛び散らしていた。 ラスベガスは仕事で5日間いたが、ほとんどクーラーの効いたホテルから外に出ることが出来なかった。クーラーの無かった時代に、こんな苛酷な場所によくぞ人間が住み着いたと感心する。夏の暑さをどうやってしのいだのか、さぞかしたいへんだったことだろう。 また、同じアメリカでもアラスカの北極圏に行った時は、地元のイヌイットが「真冬の気温はマイナス50℃くらいにはなる」と言っていた。暑いところがあれば寒いところもある。世界の気候には極端に劣悪なところが沢山あるのである。同じアメリカ国内なのに、ラスベガスの砂漠とアラスカ北極圏での温度差は100℃もある。どちらも人間が住むには快適とは言い難い場所だ。どうして人間は好きこのんでこんな苛酷な場所に住まなければならないのだろうか。それだけ人間はしぶとく、ある程度苛酷な環境でも住めるということなのだろう。 それに比べれば水と緑に比較的恵まれている日本はまだマシな場所なのかもしれない。暑い暑い、寒い、寒いと言ったところで、世界の状況と比べれば全然たいしたことではないのだ。 猛烈に暑かった真夏のラスベガス出張では、帰る前日に一日だけ出来た休みを利用して、コロラド川をせき止めた巨大なダム、ミード湖で釣りをしたことがある。ガイドがホテルにやって来たのは午前3時、大きなバスボートを牽引したガイドの車に乗って暗い夜道をミード湖に向かう。 ガイドの話だと、まだ日が出ない涼しいうちに釣りをして、朝の9時前には陸に上がる予定だから、こんなに早く行くのだと言う。「9時以降も釣りをやっていたいと君たちがいうならやってもいいが、強い日差しで熱中症になってしまうぞ」と言う言葉に、ラスベガスの暑さを体験している小生は即ガイドの提案を受け入れた。 まだ薄暗い中で見たミード湖は言われているほど大きいとは感じなかったが、ボートで走り出すと、途方もなくでかいダム湖であることが分かった。たった一つのダムで総貯水量は400億トン。日本のすべてのダム湖の総貯水量を合わせても250億トンにしかならないことからして、この湖の大きさは常識の範囲を超えていることが分かる。 このときの釣りはブラックバスと思っていた。しかし、夏は湖面の水温が高すぎて釣りにならない。今釣れるのはストライパー(日本名シマスズキ)と呼ばれる魚で、これは日本のスズキに良く似た姿をしているが、体に縦の縞がある。シマとは縞のことでシマスズキなる名前が付けられた魚である。 ポイントに着くとガイドが重めのスプーンを10m以上沈めてから、リールを巻けと指示した。この時期、ストライパーは水温の高い表面水温層は避けて、水深が10m以上下にある冷たい水の層にいるらしい。小生、ガイドの言うがままに適当にルアーをキャストし、20ほどカウントダウンしてから、リールを巻き始めるとすぐにヒットしてきた。 大きさは60㎝くらいのスズキに良く似たストライパーが、ほとんどワンキャスト、ワンフィッシュの入れ食い状態で釣れてくる。しかし、日本にこの魚を持って帰るわけではないから、釣れる度にリリースするが、水の中に放してもすぐに横になって泳ぐことが出来ない。周囲の水温が暑すぎて体が弱って下の涼しい層まで泳げなくなってしまうのだ。 湖の水に手を入れて見たらお湯のような熱さである。水面は灼熱の日差しで煮えたっていたのだ。水の表面だけとはいえ、400億トンもある膨大な貯水をお湯のように暖めるこの土地がいかに暑いかが分かるだろう。 煮立った水で横になるストライパーを見て、ガイドは「しょうがないさ」という顔をしていたが、小生は釣りを続けていくことに次第に罪の意識を感じてくるようになった。地獄のような暑さの中、釣りをやりたいと言った小生が悪いと言えばその通りである。草木などほとんどない湖岸の景色は、まるっきりの砂漠で、赤茶けた岩に朝日が当たって、灼熱地獄が始まる直前には釣りを止めて、冷房の効いたラスベガスのホテルに戻った。
by weltgeist
| 2010-08-01 23:21
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