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西田幾多郎(にしだ きたろう)の無、その3、無の場所 (No.661 10/03/03)

西田幾多郎(にしだ きたろう)の無、その3、無の場所 (No.661 10/03/03)_d0151247_21103749.jpg 西田にとって、「自覚とは自己が自己を考えること、自己の中に自己を映すことに他ならない。まだはっきりしてもいない私が、形あるものとして私を私のなかに映し出していくという意味である。無限の流れである実在を合一する直感と、時間的な流れである経験を空間的に把握しなおす反省とで純粋経験を自覚することで私であるものと、世界であるものを切り分けるようにしていく働きが自覚である」と昨日書いた。
 ではこうして切り分けられた自己とはどのようなものだろうか。西田は「善の研究」の後で書いた「働くものから見るものへ」の中で次のようなことを言っている。

純粋経験というものは・・・無限の内容を含んだものと考へねばならぬ。我々がこの深底に入り込めば入り込む程、そこに与えられた現実があるのである。それは主観的に言へば対象化することのできない自己であり、客観的に言えば反省し尽くすことのできない直接の所与である。そこに主客合一の直観、純粋活動の意識があり、すべての知識の根源がある」(西田幾多郎全集第三巻「働くものから見るものへ」3-272)
 
 上の文で言われる純粋経験は「善の研究」で言われた内容とは微妙にニュアンスが異なっているが、ここで純粋経験と呼ばれたものは、無限の内容を含んだ与えられた現実として現れてきている。つまり主観的には「対象化することのできない自己」客観的には「反省し尽くすことのできない直接の所与」となって現実に現れてきているのである。だが、それは純粋経験と同じで言語では言い表すことができないものである。
 では「対象化できない自己」」「反省し尽くすことのできない直接の所与」、すなわち、対象として把握できないし、概念で言い現わすこともできないものとはどのようなものであろうか。「それは・・・有とも無ともいへない、所謂論理形式によって限定することのできない、かえって論理形式を成立せしめる場所である」(3-419)と西田は言っている。ここで西田は後に彼の重要な用語となる「場所」という言葉を出してくる。
 このあたりの西田の考え方は非常に分かりにくいが、自己を自己の中で追究していくことで明らかになってくるのは、自己についての論理形式、即ち言葉ではなく、それを生じさせる場所というものであると考えていることだ。自分が見えてくるということは、自分を追究する「場所」が見えてくるというのである。この理解がキーポイントであると思う。自分を追究していったら、「論理形式によって限定することのできない」場所に行き着いた。つまり自分が自分をつかまえようとしている行為の舞台、コンピュータで言えばCPUのような場所に行き着いたということである。それは判断している主体そのもの(つまり自分そのもの)であるから、言葉で判断することも出来ない。自らを自らが判断など出来ないのだ。
 それゆえ、そうした判断を生じさせる「場所」ということにならざるを得ないのである。場所とは自己とか世界、客観、主観、有、無などあらゆる対立をそこで成立させるという意味において、まさに「無の場所」ということになると西田は考えているのである。
 無の場所とは自己の中に自己を映すことになる場所である。自己はまだ何らの具体的な姿を現さないが、その自己が自己の中に自己を映すものとしていく場所である。自らもその中にあって、自らを映している場所が、それ自身でもあるというややっこしいい関係にあるのである。
 ここで言われる場所を鏡にたとえれば分かりやすいかもしれない。鏡に映る自分と鏡は別のものである。ところが、西田は自己を映すものと映される場所が一つであると考えている。つまり人間が鏡そのものになっていると想像すればいい。もちろん、場所は鏡のような形があるものではなく、「無」である。無である鏡がそれ自身のなかに形あるものとして自己を映し出していくのである。
 ぶっちゃけて言えば、禅で悟りを開いて、無心になった人を想像すれば分かりやすい。彼の心は鏡のように曇りがないから、自分の外にあるものすべてをクリアーに映し出す。それでいて、自らの心に曇りのないことをも自覚している、そんな状態の人間を西田は考えているのだ。
 世界は私があって成立するという西洋哲学的主観・客観の枠組みから人間を見ていくのではない。すべての根底にあるのは主体ではなく、「無」である。無こそすべての根源なのだと西田は言うのである。
以下明日に続く
by weltgeist | 2010-03-03 21:24


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