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名人に教わった蝶の展翅法 (No.559 09/11/17)

 50年ぶりに再開した蝶の収集で、美しい蝶の標本作りも始めたのだが、これがどうもうまく行かない。採ってきた蝶を展翅板の上に貼り付けて乾燥させるとき、どうしても形が崩れてきれいな標本にならないのだ。それもモンシロチョウのようなありふれた普通種なら、仕上げに失敗してもまた採ってくればやり直しはきく。だが、7月に行ったキルギスのウスバシロチョウ( Parnassius )のような貴重な蝶を失敗すると目も当てられない。
 何度も失敗を繰り返し、痛い目にあっているので、最近はわが家の庭に飛んできた蝶を練習台にして何とかきれいな標本が作れるようトライしているが、それでも失敗ばかりしている。とくに難しいのが、蝶の頭の先についている細い触角だ。他の人の標本を見るとまっすぐきれいに伸びている。ところが小生がやると、これが不格好に曲がってしまい、まっすぐにならないのだ。なんとかまっすぐに伸ばそうとすると、細い触角がち切れてしまう。これは蝶の標本としては致命的な欠陥となってしまうのだが、しばしば同じ失敗を繰り返していて如何ともし難い。
 触角をまっすぐにし、翅もきれいに揃えるにはどうしたらいいのか。蝶初心者の小生は、ネットで見つけた「蝶の標本の作り方」を参考に、自己流でやってきたが、どうも埒(らち)があかない。知り合いは練習するうちに次第に上手になると慰めてくれるが、いつまでたっても上達しないのに業を煮やし、今回ある名人に直接教えを請うことにしたのである。
 年間数百頭も蝶の展翅をするという名人に今日わが家にきていただき、展翅のやり方を実際に手ほどきしてもらったのである。まず名人は小生が使っているピンセットや展翅板、虫ピン、展翅用テープまで一通り見て「あ、これでは駄目だ」と、一刀両断のもとに言い切った。何もかもがごつすぎて繊細さがないから、こんな物でやったら蝶を傷つけて当たり前だと言うのだ。そして名人が取り出した道具を見せてもらったら、小生のものとは全然違う。ものすごく繊細な作りになっているではないか。
 彼の道具を使って展翅の仕方を見せてくれるというので、小生は小さなシジミチョウのやり方をとくにリクエストしておいた。シジミチョウのような1㎝にも満たない小型の蝶はとくに展翅が難しく、触角や翅を傷つけることなしにどうやったらうまくいくか知りたかったのである。「それでは」と言って名人が始める。すると、彼はわずか数分できれいに展翅し終えてしまった。小生がやれば1頭仕上げるのに30分は絶対かかるのが、軽快な手つきでアッという間にやり終えてしまい、小生、写真を撮ることも忘れて見入ってしまったのである。
 数頭展翅を終えたところで名人が「写真を撮らなくていいの」と聞かれ、ようやく我に返って名人のやり方を記録させてもらったほど見事だった。以下はそのやり方を記録した写真だが、実はシジミチョウではない。大きな蝶の方が写真を撮るにはいいだろうと、小生が用意したアサギマダラを使ったのである。だが、申し訳ないことにこれに合う展翅板が用意出来ず、翅がはみ出す形の記録になってしまった。それと、スペースの関係から全行程を紹介出来ず、飛び飛びのカットしか出来なかったことに対し、名人には申し訳なく思っている。
アサギマダラの展翅例
名人に教わった蝶の展翅法 (No.559 09/11/17)_d0151247_23444219.jpg
(左)採集日にそのまま冷凍保存しておいたアサギマダラを一日、湿らせたタッパーの中に入れて解凍、軟化させ、直前にアンモニア液を少量注射器で注入し、筋肉部をやわらかくしておく。蝶を持つときは必ずピンセットを使い、背中にまっすぐに昆虫針を指す。(右)針が垂直になるよう展翅板に刺す。
名人に教わった蝶の展翅法 (No.559 09/11/17)_d0151247_2345171.jpg
(左)両方の翅の上に展翅テープをかぶせる。今回は展翅板、展翅テープともアサギマダラには小さすぎるため、翅が飛び出しているが、本来はこれよりもう少し大きな展翅板と展翅テープを使う。(右)翅の付け根の所に細い昆虫針を当てて、前翅を上に上げていく。このとき左手で展翅テープをゆるめたり張ったりして調整する。
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(左)後翅も同じように昆虫針で上にあげていく。(右)左の翅が全部上がったら、右も同じように左右のバランスを考えながら上に上げていく。この間、まだ虫ピンでテープは止めない。
名人に教わった蝶の展翅法 (No.559 09/11/17)_d0151247_23461824.jpg
左右の翅を上げ終えたら、虫ピンで仮止めし、この後触覚を2本のピンセットでまっすぐに揃えていく。ここが標本がきれいに仕上がるかどうかのキモである。先が細くて柔らかいピンセットで触覚の根本付近を引っ張りながら整える。しかし、触覚をはさんでいるピンセットに力を入れすぎると、触覚が切れたり、とれたりする。この力の入れ具合がかなり難しいと言われた。
名人に教わった蝶の展翅法 (No.559 09/11/17)_d0151247_23464439.jpg
触覚がきれいに整ったら虫ピンで止めて完成。翅がきっちり止まっていれば、虫ピンは6本あれは十分である。今回の場合は胴体が展翅中に下がらないよう脱脂綿で止めたためピンを1本余分に使用している。
by weltgeist | 2009-11-17 23:55


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