キリスト教徒は今日の日曜日を「しゅろの日曜日」(英語では Plam Sunday =パーム・サンデー)と呼んでいる。なぜ今日がしゅろの日曜日というのか、聖書を調べてみたら、ヨハネの福音書12:12-13に「大ぜいの人の群れは、イエスがエルサレムに来ようとしておられると聞いて、しゅろの木の枝をとって、出迎えのために出て行った」と書いてある。彼を歓迎するために信者が道にしゅろの葉を敷き詰めた絨毯(じゅうたん)を用意して、恭しく迎えた記念すべき日なのである。
しかし、この日はその後イエスがユダヤ教の司祭たちに捕らえられ、殺されることにつながる重要な一週間の始まりの日でもある。エルサレムに入った彼は翌週には逮捕され、総督ピラトの裁判を経て、金曜日に十字架に架けられて殺され、さらに3日後の日曜日に復活する。復活した日曜日がイースター、すなわち復活祭である。だから「しゅろの日曜日」からイースターまでの目まぐるしい一週間の展開は特別重要で、この週をキリスト教徒は「受難の週」、または「聖週間」と呼んでいる。 今年は今日が「しゅろの日曜日」であるから、イースターは来週の日曜日、4月4日ということになる。前にも書いたことがあるが、かってのキリスト教の暦は旧暦を使っていて、イースターも春分の日の後に来る最初の満月の日曜日とされていた。従って、イースターは日本のような固定した休日ではなく、月齢で変わってくるから毎年違った日になり、今年は4月4日なのである。 ところで、「しゅろの日曜日」の語源となったヨハネ福音書の記述を、他の福音書で確認してみると、それぞれ違った表現になっている。マタイ福音書21:8では「群衆の大ぜいの者が自分たちの上着を道に敷き、ほかの人々は木の枝を切って来て道に敷いた」とあり、しゅろとは書いていない。同じようにマルコでも「多くの人が自分たちの上着を道に敷き、また他の人々は、木の葉を枝ごと野原から切ってきて敷いた」(11:8)とある。ここではどちらも木の枝になっていることから、カトリックでは「枝の主日」とも言っているのである。主日とは「主の日」という意味で、ラテン語ではドミニカと言う。 しかし、これらの記述の違いは大きな問題ではない。ここで注目することは、イエスはとても恰好良い人として、威厳を持ってエルサレムに入城していないことだ。彼は世間で愚鈍と言われているロバに乗って行くのである。それも弟子にわざわざロバを連れてくるように指定してであるから完全に意図的である。もし彼が神ならどんな状況だって設定出来たはずなのに、ドンキホーテの従者、サンチョみたいに、わざとロバに乗っていくのはなぜだろうか。ここにはキリスト教の神に対する本質が見えてくるのである。 これは彼がクリスマスの時、みすぼらしい馬小屋で生まれたのと同じ思想で、神はイエスをごく普通の当たり前の人間として世に送り込んでいるのである。主は自らの分身であるイエスを、不完全で罪深い人間として世に送り込み、その犠牲によって罪をあがなおうとしたのだ。だから、ヨハネ福音書12:13では続けて「ホザナ。祝福あれ。主の御名によって来られる方に。イスラエルの王に」と人々に歌わせるのである。ホザナとはヘブライ語で「我を救い給え」の意味である。 人々はロバに乗った人、イエス・キリストを救世主、メシアがやって来たと見て叫んでいるのだ。こうして彼はエルサレムに入り、人類の罪を一心に背負って十字架に架けられて行く。ロバは神が人間の背丈まで降りてきていることの暗示である。 今日の「枝の主日」にふさわしい過ごし方はどうあったらいいのか。小生、今夜はモーツアルトが書いた「主日のための夕べの祈り K.321」という曲を聞いて静かに過ごした。あまり馴染みのないモーツアルトの宗教曲であったが、心にしみいるような演奏だった。この曲を知ったのは2006年にNHKハイビジョンで放送したニコラウス・アーノンクールがウイーン・コンツエントウス・ムジクスを指揮(合唱・アルノルト・シェーンベルク合唱団 )したものの録画テープである。詩篇の朗唱とマリアが讃えるマニフィカートで締めくくられた6つの楽章の最後には頌栄(神の栄光の賛美)がついていて、バッハのマタイ受難曲とは違った意味での深い感動を呼ぶ音楽だと感じた。この曲を聞きながら、今日の「枝の主日」の意味と、イエスのロバの意味を改めて考えて過ごしたのである。
by weltgeist
| 2010-03-28 23:56
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